21世紀の社会システムをデザインする「ユニバーサルデザイン・コンソーシウム」  
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ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#54 ユーザーフレンドリーなグッズたち
 
作り手とユーザーをつなぐコミュニケーション―
 

 人とモノとの付き合い方が、大きく変わろうとしている。スローライフ、ロハスといった言葉が一般にも浸透し、身の回りにモノが溢れた豊かさではなく、お気に入りのモノと暮らす豊かなライフスタイルがいま求められている。

 社会的にも、ゴミの分別回収化や粗大ゴミの有料回収、リサイクルが進み、常に環境問題を意識して生活することが当たり前になってきた。ゴミを生み出しつづける社会システム全体が、変革を余儀なくされている。

 多様化する個人のライフスタイルと地球環境の問題を考えるとき、このふたつをつなぐキーワードになるのが、ユニバーサルデザインの視点ではなかろうか。ユーザーが本当に必要としているモノだけを生産し、確実に手元に届 ける生産・流通のシステムづくり。そうしたモノづくりを可能にするつくり手とユーザーのコミュニケーションづくりが模索されている。

 今号では、日本のプロダクトデザインの現場を検証するとともに、編集部が選ぶユニバーサルデザイン・プロダクトを紹介する。いまやユニバーサルデザインも使いやすさや美しさは当たり前。素材のクオリティや高い技術力、機能性 の追求など、様々な付加価値を併せ持ったプロダクトが生み出されている。人とモノの豊かな関わりを再考する。

 
写真:ユーザーフレンドリー商品
 
【写真:ユーザーフレンドリー商品】
 
ユーザーフレンドリー/http://userfriendly.jp/
 
#54 1 江戸木箸 ―大黒屋―
#54 2 ひのきのはきもの ―ひびのこづえ×和工房みずとり―
#54 3 Kontex ―近藤繊維工業―
#54 4 フレンズ・フォーエバー ―HOGRI―
#54 5 TO:CA ―I.D.E.A International―
#54 6 三川内焼き ―平戸洸祥団右ェ門窯―
#54 7 帆布バッグ ―シライデザイン―
#54 8 「地方の力と使い手を結ぶユニバーサルな流通の仕組みが必要」  
                                  ―益田文和氏―
使い手のしあわせこそがものづくりの原点だ
 
 
川床 優(UDC主任研究員)
 
写真:ヴィクター・パパネック著「生きのびるためのデザイン」

 ヴィクター・パパネックの名著『生きのびるためのデザイン』が日本で発刊されたのは1974年だ(原初版は1971年)。そこにはすでに、現在の地球環境とデザインの役割についての議論に対する基本的な回答が網羅されていた。そこで構築された理念が35年を経て、今ようやく市民権を得つつあるかに見える。35年前にパパネックはこう言った。

 「最近のデザインの多くはつかの間の欲望や欲求のみにこたえてきた。別の面からいえば、人間が本当に必要としている要求はしばしばデザイナーによって無視されてきたのである。」「デザイ ンは、人間の本当の要求にこたえるような道具となるのでなければならない。(中略)そしてわれわれは、デザインのまずい品物や構造物で地球そのものを汚すのをやめなければならない。」(阿部 公正訳)

 パパネックはさらに、使い手とデザイナーの関係を端的に述べた、インダストリアル・デザイナーのヘンリ・ドレフェスの言葉を引用する。「我々が仕事としてつくり出しているものは、人びとが乗ったり、すわったり、眺めたり、それに向けて話したり、利用したり、操作したりしようとしているものであり、あるいはまた、個人的にかもしくは集団で、なんらかの仕方で使われようとしているも のなのである。製品と人びとの接触点が衝突点になると、インダストリアル・デザイナーは失敗だ。それと反対に、人びとがいっそう安全に、快適に思うようになり、もっと品物を買いたいと思うように なり、もっと有能になるなば―つまり、端的にいえばいっそう仕合わせになるならば―デザイナーは成功したことになるだろう。」(『百万人のデザイン』より)

 同書でパパネックが繰り返し述べるように「デザインというものは、それを使う人びとの集団の違いに応じて実施されるのでなければならない」のであり、「使い手のしあわせ」こそが、デザインの真の創り手であるべきなのである。

 では、その理念はこの35年でどう変化したのか。環境問題は地球規模で大きくその認識を高め、理念の広範な具体化を見せた。また、大量消費社会に対するデザイナーの使命への認識もようやく次世代に新たな萌芽を見ることができるようになった。しかしそれは、まだ彼の理念構築の範囲内である。理念的には、普及・成長とは言えても、進化とは言えない。例えば、30年前に指摘された、作り手と売り手中心の発想から使い手中心の発想へと転換する、いわば視線の逆転すら、いまだ緒についたばかりである。そうした課題を、ひとつずつ進化させていくことも、 本誌の重要な使命であると考える。

 そこで、パパネックの理念を超えたデザインの進化を示唆する事例をひとつだけ挙げよう。本特集にも登場された、川崎和男氏の「デザイン医工学」の提唱だ。人工臓器をはじめとする数々の医工学デザイン提案は、氏の広範なデザイン活動の中でも、最もラディカルなデザインの進化例である。そして、あえて牽強付会するなら、それは究極の「使い手のためのデザイン」でもあるのだ。ちなみに前掲書にはこうも書かれている。「新たな発見がなされたり、行動がはじめておこされたりするのは、たいてい互いに違った技術や学問分野の境界領域において写真:人工心臓なのである」と。

【写真上:Victor Papanek ヴィクター ・パパネック 1925年ウィーン生まれ。十代にアメリカへ移住。フランク・ロイド・ライトに師事。ロードアイランド・デ ザイン学校、インディアナ州パーデュー大学教授を経て、カリフォルニア・インスティチュート・オブ・ジ・アーツのデザイン学校長。長年にわたりユネスコの専門委員として、インドネシアやアフリカな ど発展途上国の生活向上のためにデザイン面で尽力し、同時に身障者のためのデザインに意欲的に取り組んだ 
写真下:Total Artificial Heart:1999 学位論文のためのトポロジー空間 論、カタストロフィー理論に基づく人工心臓の仮説論的研究イニシャルモデル】

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