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ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#76 顧客、社会に求められる品質確保のためのプロセス
 
─ 鹿島の考えるユニバーサルデザイン1 ─
 
仲田裕紀子/ユニバーサルデザイン編集部
 

鹿島KIビルのアトリウム

 

大手総合建設会社の鹿島では、建築設計本部の品質技術管理統括グループ 環境・性能グループに専門のチームを設け、ユニバーサルデザインに取り組んでいる。
ユニバーサルデザインも環境と同様に社会や顧客が求める建築性能の一部ととらえ、設計から施工までの各段階で品質確保のためのさまざまな試みをしている。赤坂KIビルを拠点に高い専門性を活かして社内外にコンサルティングを行なっている品質技術管理統括グループ、環境・性能グループのみなさんにお話をうかがった。

写真:鹿島KIビル。中央のアトリウムを中心にわかりやすい空間構成となっている。アトリウムでは、水の流れる音、季節や時間で変化する光、香りなど五感を刺激し、快適なオフィス空間がつくられている。

 

 

 

建築の品質確保としてのUD
 

「顧客の要望に沿ってオーダーメイドの製品(建築)をつくるのが私たちの仕事。社会やお客様の要求に応えるためにもユニバーサルデザイン(以下UD)を基本的な品質のひとつとして取り込んでいくことが必要」だという井田卓造さん。時代背景や社会の変化によって建築への要求も変化している。少子高齢化社会の中では、高齢者の増加や子育て支援、障がいのある人の社会参加など社会の成熟化に合わせてさまざまな身体能力の人が利用しやすい環境が求められる。とくに交通施設や商業施設など不特定多数の人が利用する公共性の高い空間では、誰もが安全に快適に利用できる配慮が必要だ。

同社では、社内でUDを普及・啓発するために「高度なバリアフリー」と位置づけて設計者が取り組みやすくしているという。「単なる段差解消ではなく、もう一工夫しようよという声がけです」と原利明さん。

 
社会のニーズに応える建築
 

建築設計本部は総勢約600名の設計集団。そのなかの環境・性能グループはUDをはじめ、環境配慮、性能設計、防災・防犯、FM/FP(ファシリティ・プログラミング)といった多岐にわたる分野に対し社内外のコンサルティングを行っている。

UDに取り組む背景には前述のとおり、少子高齢化がある。2006年にはハートビル法と交通バリアフリー法がバリアフリー新法に統合され、高齢者・障がい者の円滑な移動が進められてきた。また医療費抑制や生活の質を高めるため高齢者を地域で見守ることが提唱され、長く住みつづけられるまちや住まい、建築が求められてきている。社会基盤としての建築が重要視され、都市や建築のサステナビリティも大きな課題だ。

企業においてもUDへの関心は高い。「CSRの一環としてUDに取り組んでいる企業も増えています」と原さん。企業の障がい者雇用が進み、またさまざまな身体能力の人の来訪にも配慮し、バリアフリー化されていないビルは淘汰されていくことも予想される。また昨年9月には、日本でも国際障害者権利条約に署名した。「建物のバリアによって社会生活を営むことができないのでは、国際的に信用を失うことにもなりかねない」。

現在、障害者手帳を取得している人の約6割が65歳以上だという。高齢化に伴い、糖尿病による網膜症、白内障、緑内障などの眼疾患も増え、さらに加齢による視機能の低下もあり、空間を認識しやすくすることが課題になってきた。空間を認識するには視覚情報が約80%以上を占めるともいわれている。

バリアフリー新法や福祉のまちづくり条例で、さまざまな身体能力の人が円滑に移動するための段差解消や多目的トイレの設置に関しては一定の成果が出てきた。「しかし、段差解消などの物理的なバリアの解消だけでは円滑な移動に十分だとはいえません。目的地への案内誘導や、空間形状や構成、障害物の有無などがわかりやすいことも円滑な移動のためには重要です。空間構成が直感的にわかることが次のキーワードになってくるでしょう」と原さんは指摘する。

 
空間の使い勝手や日常災害防止の観点
 

「空間の使い勝手」に対して、設計者は真摯に取り組まなければならない。従来は、段差でつまづくのは本人の不注意だと言われることが多かったが、最近では設計や施工の問題ではないかと指摘されることもあり、きちんとした設計が求められている。これまで不具合や瑕疵にならなかったことが最近クレームになるケースも。品質の確保がブランド力向上の鍵になる。

「日常生活のなかで起こる事故やけがなどを防ぐという日常災害防止の観点から、UDに取り組んでいます」と西野法朋さん。「45歳以上の不慮の事故は交通事故よりも建物内での事故が多いというデータもあります。日常災害には建築で防げるものも多い」と原さん。日常災害への関心が高まり、危険な段差処理や錯覚を誘発するデザインが指摘されている。法的な基準を満たしていても、使いにくい、あるいは事故を誘発するような危険な建物もある。法律さえ守っていればそれでよいというわけではなさそうだ。

 
床パターンの例   写真:錯覚を誘発するデザイン
写真のようなライン状の床パターンは、物が見えにくい人には段があるように錯覚してしまう危険をはらんでいる
 
 
設計プロセスの各段階で異なるUDポイント
 

同社では、初期の計画段階から、基本設計、実施設計、施工、さらに完成後の検証まで、プロジェクトの各段階でUDを実現するためのポイントをあげ、「すべてできているわけではありませんが、各段階で必要な事項を組み込んでいます。とくに基本設計段階での移動の円滑化に関しては、デザインレビューなどのチェック時に指摘やアドバイスをしたり、図面上での確認なども行っています」と原さん。

基本設計で重要なことは、空間の移動が円滑にできるかどうかを見極めること。実施設計では、音や光環境、色彩計画、照明計画、素材の選定などに注意を払う。さらに品質維持するために担当マネジャーによる検図を実施。竣工段階でも検証を行い、その結果を社内の研修会やデザインレビューを通して社内にフィードバックしていく。今後は、有識者や専門家などによる検証も行い知見を積み重ねていきたいと考えているという。設計コンサルタントをした柏瀬眼科では、提案したデザインが初期の狙いどおりの効果を上げているか、大学の協力を得て竣工後に検証した。

前段のコンセプトワークもUDを具現化していくための重要なポイントだという。環境、防災、避難計画、環境工学、UDを総合的に考えるミーティングを開き、デザインコンセプト策定にも取り組み始めたという。

 
ユニバーサルデザイン実現のプロセス
 
図:ユニバーサルデザイン実現のプロセス
ユニバーサルデザインの特長にユーザー参加型の手法がある。さまざまな特性をもつユーザーに施設を利用してもらい、使いやすさを検証したり、不便な部分を改善していくモニタリングも盛んに実施されるようになった。しかし時間や予算などさまざまな制約の中で、常に利用者参加でのものづくりはむずかしい。そこで社外の有効な技術、知見を活用し設計に反映してことも必要になる。
 
音や光による空間演出と科学的な手法
 

「空間を認識しやすくするウェイファインディングへの取り組みは医療・福祉施設では定着しつつありますが、本来、あらゆる施設の計画で配慮されるべきでしょう」と田覚治さん。防災の観点からUDに取り組む西野さんも「災害時の情報提供と安全確保はすべての人が対象。そのためにも計画段階から空間の認識しやすさに配慮することが必要」だという。

また光や音環境の違いを計画のなかに取り込んでいくことも効果的だという。「照明を工夫して空間を把握しやすくしたり、音によっても場所を伝える手助けが可能です。光や音によって実現できる空間のUDもあると可能性を感じています」と桑原賢一郎さん。「例えば視覚に障がいのある人は白杖や足音などのさまざまな反射音を活用している。特別なことではなく、デザインボキャブラリーを応用することでUDの考え方にもとづく建築空間を実現できることも多い」と原さん。

今後、建築空間にUDの考え方を実現していくためには科学的な知見も重要であるというのがメンバー全員の意見だ。例えばサインを見やすくするといっても、誰の基準でどのくらい見やすくなったのか、それを建築主や利用者など関係する人たちに納得してもらうためにも、科学的な根拠が必要だという。そのためにもこれまでの調査研究データやさまざまな評価シミュレーションを有効に使っていきたいという。さらに大学等の研究者や有識者・専門家と連携し知識や技術、ノウハウを得て、それを社内に展開していくことも重要だ。

 
デザインとユーザー配慮の両立をめざす
 

「建築は規模が大きくクリアすべきことがたくさんありますが、本来は携帯電話と同じようにユーザーの使いやすさを考えてデザインされるべきもの」と堀川直美さん。環境・性能グループでは設計の品質向上に役立つ情報を提供しようと、UDに関する事例集や関連技術、法規、既往研究論文、図書・参考資料などを社内イントラネットで発信している。さらに最新の情報、トッピックスも常に紹介している。

バリアフリー新法の施行に伴い、関連するガイドラインが見直され、なかでも多機能トイレの考え方が利用者の観点で見直された。このようなことを受け、同グループを中心にして多機能トイレを見直すことにした。利用者の利用動作やニーズ、動作寸法など利用者の身体能力と使い勝手を設計者が理解しやすいようにていねいに説明をした社内用のマニュアルをつくっている。「設計者が、利用者の動作やニーズを理解することで使いやすいデザインが実現できます」と堀川さん。

2005年に開港した中部国際空港では、環境・性能グループの1人がユニバーサルデザイン設計検討会の委員として参加し、設計変更のアイデアなどを提案し、空港のUD化に貢献した。

まちに出ると、竣工後に事故が発生したり、危険な部位が発覚し、ガードマンを配置したり、注意喚起のために警告の黄色いペンキが塗られてしまっている施設も目に付く。井田さんは「ときには設計者が意図したシャープなデザインがアダになることもある。そのようなデザインは安全性の観点で醜いプロテクターが後付けされてしまい、デザイン的にも当初の意図が達成されなくなってしまう」とユーザー配慮型デザインの重要性を語る。「空間の使いやすさや、わかりやすさを実現しながらデザインと両立させることが究極のUDかもしれません」と田覚さん。「それが当たり前になり、あえてUDだといわなくなることが理想です」と原さん。

同社では今後も広い視野と専門技術を融合させ、日常災害防止をはじめとする建物の安全性や空間のわかりやすさ、人に優しい使いやすいデザインなど、建築の品質を高めるためのUDに取り組んでいくという。

 
中部国際空港の床デザイン改善例

 

図:中部国際空港の床デザイン改善例
●原案 
進行方向に沿ってラインをひいた床デザイン。幅100mmで1200mmピッチの床のラインが歩行の際のガイドになるように工夫された。ただしラインを横切って歩行する時にはラインが階段や段差に錯覚・誤認される可能性がある。
●改善案
ラインを横切る可能性の高い部分はラインを切って注意喚起する。
ラインを歩行のガイドに利用しても安全に歩行できるように障害物の手前でラインを切る仕組みにした。
 
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