生活習慣病や食物アレルギーなど食事制限を強いられている人は多い。 本人やその家族にも大きな負担になることも。 しかし、誰にとっても食事は楽しくおいしいものであるべきだ。 栄養バランスがとれていて、おいしく見た目も楽しめる料理やスイーツ。 「制限食でもおいしく、楽しく」は、食のユニバーサルデザインの重要な視点だといえる。
写真:卵、乳製品、大豆を使っていないケーキ。従来の代替食品とは違い、フレッシュフルーツがたくさんのった見た目もおいしそうなケーキ。たいていの子どもが「ショートケーキを食べたい」というそうだ。
文部科学省の調査によると、全国の公立小中学校に通う児童・生徒のうち、約70万人がアトピー性皮膚炎だという。さらに食物アレルギーの子どもは約33万人に(文部科学省・2007年4月)。アトピーや食物アレルギーのある場合は、アレルゲンを除去した制限食が必要になる。 そこで誕生したのがノンアレルギーケーキ。見た目は普通のケーキだが、卵や乳製品を一切使っていない。
静岡県沼津市のシェ・ワタナベでは、個々の症状に合わせて、卵・牛乳・小麦・ゼラチンなどを取り除いたケーキをつくってくれる。現在は、注文のみだが、「ふつうのケーキと同じようにいつでも買えるようにしたい」とオーナーの渡邊香代子さん。 もともとは、長男の隆太郎さんが子どもの頃にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーがあり、香代子さんが、アトピーの息子さんが食べられるお菓子やケーキを作ったことがはじまりだという。 知り合いの人たちに頼まれてノンアレルギーのお菓子づくりをするうちに、バリエーションも増えていった。香代子さんのお菓子はクチコミで広がり、なりわいとしているフランス菓子のお店でも扱うようになったという。 毎日、全国から注文の電話が入る。クリスマス時期には、泣きながら電話をかけてくる若いお母さんもいるという。食べる人のアレルギー食品や症状を確認し、注文を受ける。ケーキは冷凍して全国に発送される。
シェ・ワタナベでは、生クリームや卵をたっぷり使った普通のケーキやお菓子も販売している。最近、人気のあるのが、低カロリーのケーキやプリン。糖尿病などの生活習慣病やダイエット中の人でも、スイーツを楽しんでもらいたいという願いから製品化がはじまった。 さわやかな酸味が特長のレモンケーキは、1個で約84キロカロリー。通常、ケーキは1個で400キロカロリーくらいあるから、それを考えるとかなりの低カロリーだ。店頭では、カロリーに関係なく「おいしいから」といって買っていく人もいる。 これまで食べたくても食べられなかった人がスイーツを楽しめるようになった。さらに特別なお店で特別に作ったスイーツではなく、まちのおしゃれなケーキ屋さんでふつうに買えるのだ。まさにユニバーサルデザインの好例だといえる。