「ユニバーサルデザインのまちづくりに向けて」 〜ハートとハードが響きあう〜 潮谷義子熊本県知事
松本市の取り組み 菅谷(すげのや)昭松本市長
日本は経済優先主義になり、人と自然、人と社会、人と人との関係が大きく失われています。松本も例外ではありません。北アルプスを頂く山紫水明に恵まれた豊かな地域を本来に姿に取り戻し、次の世代に引き継いでいくことが私たちの責務です。3年前に市長に就任して以来、公約として掲げてきた「命の質や人生の質を高める」ことに地道に取り組んでいます。暮してみたいと思わせる松本のまちづくりのため、「市民が主役」を基本姿勢に市政を進めています。特に、3つのK、健康づくり、危機管理、子育て支援に取り組んでいます。 私は外科医出身です。レジデントとして過ごした聖路加国際病院で日野原重明先生(現理次長)から、患者や家族の立場にたった医療を厳しく教えられました。市政運営も同じです。市民の立場で市政を運営しなければなりません。そこで今年、UDの基本指針策定委員会を発足しました。市民参加のまちづくりに向け、20名の市民がメンバーに入り、ひとづくり、まちづくり、ものづくりやソフトづくりを考える3つの分科会を発足しました。今年度末には指針を策定する予定です。
UD住宅の取り組み 砂川敏文帯広市長
帯広市は全国に先駆け、1998年に住宅のUD設計指針を策定しました。99年には、情報発信と啓蒙のため、UDモデル住宅を建設しています。UD住宅の融資制度は、介護保険の準備が本格化した頃で、自宅介護の需要に応えるために取り組み始めました。一定の設計基準を満たした住宅の新築には500万円、増改築には150万円を上限として無利子で融資しています。返済期間は20年以内。年間20件程度の利用が続いています。審査員は、市が委嘱する専門家グループです。建築士や理学療法士、介護福祉士など5名程のチームがアドバイスする、相談会を開き、更に申請者のお宅をお伺いし生活状況を確認します。 引き続き、UDをまちづくりの基本に位置づけるために公共施設のUD設計指針と居住環境UD指針を策定しました。さらに職員でUD推進の検討委員会を発足。市庁舎と行政サービスのUDに取り組んでいます。小中学校対象にUD教室も開いています。このように、ハードとソフト、ハートの三位一体でUDのまちづくりに取り組んでいます。
学校教育のUD 今井興治八幡市教育長
学校UD化構想は、少子化に伴う小中学校の再編整備が契機となっています。一方で単に学校の再編を行うのではなく、学校改革を行うための理念を示す必要がありました。そこで、UDの考え方に立った新しい学校づくりを進めるため、2005年に「八幡市学校UD化構想」を策定しました。八幡市ではUDの7原則に基づき、次の5つの要素で新しい学校づくりに取り組んでいます。 1.快適で安全な学習空間をつくる=空間的UD化 2.情報、コミュニケーションを円滑にする=情報的UD化 3.時間を有効化し、学校生活を豊かにする=時間的UD化 4.適正な費用でモノやサービスを提供する=経済的UD化 5.学校生活にゆとりをもたらし、ストレスを軽減する=心理的UD化 そして、この学校のUD化を実現するために、次の7つの視点に留意しながら、具体的な取り組みをすすめています。 1.みんなで考え、改善する学校 2.楽しく、安全・円滑に学べ、利用できる学校 3.必要な情報がすぐわかる学校 4.使いやすい施設・設備のある学校 5.人と人が支え合う学校 6.まちづくりにつながる学校 7.自然と調和した学校 さらに教育の「かたち(体制・仕組)の一新」と「きもち(発想・意識)の転換」に取り組んでいます。小・中学校の円滑な接続・移行を図るとともに、今年度、全小中学校が文部科学省から研究開発校の指定を受け、読み・書き・計算などを短時間繰り返すモジュール学習を行う「総合基礎科」を新設しました。ここでは、ニンテンドーDSソフトの活用により、効率的で効果的な学習方法=「八幡メソッド」を開発。すべての子どもたちの学力向上を図っています。
観光のUD 太田紘熙白馬村村長
かつては一大スキーリゾートとして栄えた白馬村ですが、長野オリンピック以降、観光客の減少に歯止めがかからない状態です。唯一の基幹産業である観光産業の再構築を図らねば成りません。原点に戻り、ホスピタリティの精神で地域づくりを見直すためにUDに取り組むことにしました。まずは商工会を中心にUD観光の実践を目指しています。ハードよりもソフト面でいかに全体をボトムアップするかが課題です。 最近増えている外国人観光客の誘致では、誘導手段として4ヶ国語(韓国語、中国語、英語、ドイツ語)表記のサインや地図に取り組んでいます。また、スキーシーズン以外でも、通年を通したグリーンシーズンでの魅力づくりも進んでいます。総合計画の中では、基本理念を「村ごと自然公園」としました。 当面の課題は、UDの考え方の普及啓蒙です。UD講座を開き、基礎的な理解をまず深めます。UD観光を実現するために、何よりも自分たちが暮したい村づくりをすることを前提とします。同時に学校教育でもUDを取り上げ、次世代を担う人材を育成します。すばらしい「遠景」と自分たちの目線にある「近景」、そして人々のホスピタリティである「人景」の3つが機能する観光地にしていきます。