「デザイン工学総合プロジェクト」は今年で7回目を迎える。1999年にこの方式を提唱して以来、牽引者的役割を担ってきたのが環境デザインの清水忠男教授だ。「多様な分野のもつ特色を活かして融合させ、総合的にアプローチできる人材を育てたいと考えました。一緒に調査をして、ともに考え、基本を共有し、追究すべきテーマを見出す。その際、テーマは社会的に意義のあることとしました」。社会性を取り込むことは、ユニバーサルデザインにつながる。初年度のテーマは「高齢社会に貢献するデザイン」。さらに、「やさしさ」や「わかりやすさ」などUDのキーワードを使ったテーマをもとに進められてきた。今回は、15名の学生たちが6名の教員の支援を得てテーマを絞り込んでいった。
「初期にめざしていたのはDesign for youでした」と清水教授。要求が充たされればユーザーは笑顔を見せる。その笑顔を見るためにデザインしようとした。ところが、ユーザーとデザイナーはどちらも生活者であり、デザイナー本人も充たされなければならないことに気づく。そこで、生活者が自らのために、ともにデザインする「Design for Ourselves」という考え方にたどり着いた。
写真:清水忠男教授
ユーザーとユーザーとしてのデザイナーの協働
「Design for Ourselves」を実践するため、学生たちは地域の多様な人々を巻き込んで「デザインをする会」を立ち上げた。子供をもつ父親や母親、同大学の生涯学習プログラムに参加する高齢者、商店街の店主、さらに外部アドバイザーを加え30名ほどが参加した。1年半の間に50回の会合を重ねていった。
「デザインをする会」では具体的なテーマを「安全・安心」、「つながり」、「モラルマナー」の3つに絞り、課題の設定から問題点の抽出、アイデア展開、具体化までを地域の人たちと一緒に行った。しかし、異なる世代が協働するのは容易ではない。特に初期においてコミュニケーションについて戸惑いが生じた。互いに何を考えているのか通じない。年配者とのやり取りに慣れない学生たちは、叱責を受けることもあった。そこで学生たちは、会合の進め方や情報共有の方法などについて文献にあたるなどして猛勉強をした。ホワイトボードにコメントを書いたメモを貼って整理するなどして、ディスカッションを重ねていった。その結果、状況は改善され、外部からの参加者たちも街に出て写真を撮るなどして自分たちの思いを伝えるために工夫するようになった。