「祖父が最も苦労したのは職人たちの意識変革でした」と池田素民さん。不景気の時代、職人は工賃を叩かれると手を抜いて早く作るようになる。松本の職人にはその性癖が染み付いていた。そこに池田三四郎氏は手間隙をかけ、技術の粋を尽くすことを要求した。 職人たちの姿勢を正すためには手荒なこともした。工場の真ん中で製作したばかりの家具をハンマーで叩き壊すことは日常茶飯事だった。約束どおりに組まれていない部分が出ようものなら、その職人は皆の前で罵倒されることになる。当時の職人はプライドが高くて気が荒い者が多かったので、懐に出刃包丁を隠して自宅で待ち構え、刺し違えて自分も自害しようとした者もいたという。それでも池田氏は信念を曲げなかった。なぜ自分の技術を安売りするのかと叱咤激励し、職人たちの意識を変えていったのだ。
無心から生まれる絶対美