21世紀の社会システムをデザインする「ユニバーサルデザイン・コンソーシウム」  
UDCユニバーサルデザイン・コンソーシウム
 
ユニバーサルデザインとは? トピックス
UDCのご案内 リンク集
 
サイトマップ
 
ヘルプ/FAQ
 
お問い合わせ
 
ホーム
 
ホームユニバーサルデザインとは?ユニバーサルデザインの事例と動向 > #56
 
ユニバーサルデザインとは?
UDCのご案内
トピックス
リンク集
季刊ユニバーサルデザイン
 
ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#56 松本のUDモデル住宅
 
ユニバーサルデザインとエコロジーの両立をめざして
 
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 
長野県松本市でユニバーサルデザインのモデル住宅が建設された。設計・施工は株式会社カミムラ建築研究室と地元工務店6社から成るUD住宅建設共同企業体。通常は顧客の発注に基づくが、ここでは30歳代で始めて住宅を購入する施主を想定。調査・研究後、設計・施工をおこなった。モデル住宅には全4棟の小規模住宅分譲地が隣接する。注文住宅を建て、さらにUDの趣旨に沿ったコミュニティづくりを行う計画だ。
取材協力
カミムラ建築研究所 上村保弘氏
 
 
住まう人と共に成長する家
 

「家は50年以上住み続けるもの。住まい手の加齢、家族構成やライフスタイルの変化に対応できるように設計しました」と、カミムラ建築研究室の上村保弘氏は語る。要はそれをどこまで盛り込むかだ。車椅子や高齢者に配慮したバリアフリー仕様だと住まい手に違和感を与える。そこでデザイン性と快適性を重視しつつ、将来起こりうるさまざまな変更に備えた。
玄関へのアプローチにはスロープを併設している。一方、高さ15cmの上がり框にスロープは設けていない。将来必要になったときには、既製の段差解消器で対応してもらう。下駄箱には履き替え時に便利な収納式の椅子と手すりを設置。こうした手すりの設置は必要最小限に留めてあるが、後々に備えて下地は整えている。
特長は1階の水廻りと間取りにある。本人あるいは家族(高齢者)に介護が必要になっても対応できることだ。廊下を挟んで洗面、脱衣、風呂、収納、トイレがひとまとまりになっていることに注目したい。玄関側の廊下にはドアがあり、閉めるとコンパクトな介護ユニットになる。トイレのドアは簡単に取り外せるので、将来カーテンを取り付けることも可能だ。間取りの基準は2間×2間(約3.6m×3.6m)。このユニットを住む人のライフスタイルに合わせて拡大・縮小していく。
1階の洋間は高齢者の寝室に転用できる。そこからは、直接デッキに出ることが可能だ。居間とキッチンは、介護ユニットと最短の動線で結ばれている。ポイントは、ここから高齢者の気配が感じられること。この工夫は、上村氏の経験による。現在同居中の夫人の母親は要介護レベル2。周りに迷惑をかけてはいけないとの思いから、2時間おきにトイレを使うという。夫人は、別室から隙間を開けて一日中、様子をうかがわねばならない。特に冬場は隙間風が厳しく、介護する側が参ってしまった。そこで家事をしながら気配がわかる間取りにたどり着いた。

 
玄関へのアプローチ 玄関
スロープを併設。玄関は3枚戸で間口が広い。 壁面に履き替え時に便利な収納式の椅子がある。
トイレ
ドアを取り外してカーテンで仕切ることができる。

洗面
子供の成長に備え、上下するカウンターを設置。
 
▲ページのトップへ戻る
1階洋室 デッキ
フラットサッシから直接デッキに出ることができる。
将来的に寝室に転用可能。
洋室とリビング・ダイニングをつないでいる。
呼吸する住宅
 

「機能と同時に重要なのは住む人の安全と健康です。そこまで含めてUD住宅といえるのではないでしょうか」と上村氏。安全面では火を使わないオール電化を採用した。料金の安い深夜電力を蓄えて活用できるメリットもある。
健康面では、「通気断熱WB工法」を採用した。日本の気候は高温多湿で温度差が激しい。この風土に対応する省エネルギー住宅として、高気密が一時期もてはやされた。しかし、建材や塗料に含まれるホルムアルデヒドなどの化学物質を室内空気とともに滞留させ、皮膚性アトピーといったシックハウス症候群を引き起こした。国土交通省は住宅建築法を改正、24時間の機械換気を義務付けた。しかし、この方法では電気代が余計にかかるばかりか、換気装置のメンテナンス料も加わってしまい、省エネとはいえない。
そこで開発されたのが、在来工法の知恵に最新技術を組み合わせた「通気断熱WB工法」だ。もともと伝統的な木造建築は、健康・省エネ・高耐久という優れた特長をもつ。無垢の木で建てられた家が心地よいのは、肌触りはもちろんのこと、木の調湿機能が湿度の高い時には水分を吸収し、乾燥した時には放出してくれるからだ。構造材としても丈夫で、檜作りの法隆寺は1300年の風雪を経て今に至っている。
WB工法のW(ダブル)は二重の通気層、B(ブレス)は呼吸を意味する。原理は上昇気流の応用だ。気流を自然の力で制御し、湿気や化学物質を室内から追い出してしまう。したがって、結露を起こさず、カビやダニの発生、シックハウス症候群をもたらさない。システムは、人間の気管支呼吸と皮膚呼吸をイメージするとわかりやすい。気管支呼吸にあたるのが、2重の通気層だ。一つは部屋の壁と断熱材の間に、もう一つは断熱材と外壁の間に通っている。特に前者が温度調整では大きな役割を果たす。夏には、床下の冷熱が上昇気流に乗って壁内から天井裏、屋根へと抜け、室内温度の上昇を抑える。一方、冬には床下の温熱と壁の中の通気層が保温層になり、室内温度の下降を防ぐ。
空気の流れを制御するのが「形状記憶式自動開閉装置」(特許)だ。形状記憶合金の特性を利用し、感知した温度により換気口を自動的に開閉する。夏の暑い日には装置が開き、冬の寒い日には換気口が自動的に閉まる。この装置はヘルスと呼ばれ、屋根の棟、軒の裏、壁内通気路、床下換気口の適所に取り付けられる。
一方の皮膚呼吸にあたるのが壁材に採用された透湿材だ。「通気断熱WB工法」では、全ての壁に透湿素材(自然木、透湿壁紙、珪藻土など)を使う。透湿効果により室内の空気を室外に放出するためだ。その際、有害な化学物質も湿気とともに吸収、放出されていく。上村氏によると、「空気が動いているのを感じる」、「空気が美味しい」と施主の評判は上々という。

 
1階リビング・ダイニング
キッチンから洋室の気配をうかがうことができる。
1階キッチン
シンクキャビネットは移動式で椅子にもなる。
壁面
木や珪藻土といった透湿材を採用。幅木には、手動のフロアーヘルスが設けられている。
WB工法の模型(室内)
床下ヘルス、フロアーヘルス、壁と断熱材の間の通気路、天井裏の構造を示している。
WB工法の実験

左側が高密度、右側がWB工法の実験風景。高密度では空気が淀んだままだが、WB工法では、温度の上昇とともに、淀んだ空気が通気路を通って屋根の隙間から排出されている。

ライフスタイルへの対応
 
上村氏は、UD住宅の課題はどこまでライフスタイルを提案できるかということだと締めくくる。「住む人の現状を重視し、他方でその変化に備える。このノウハウが戸建をはじめこれからの賃貸住宅に求められるのではないでしょうか」。多様性への細かい配慮という点で戸建住宅に勝るものは無いだろう。上村氏は間取りはもちろんのこと、これからは家具や食器まで考えていきたいという。松本のUDモデル住宅は、快適に住み続ける住宅のあり方を示してくれている。
 
▲ページのトップへ戻る
 
個人情報保護方針ご利用規約
 
All Rights Reserved, Copyright (C) 1999-2005, universal design consortium, G×K Co.,Ltd