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#52 誰もが楽しめるフィットネス・スポーツウォーキング |
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曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員 |
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高齢社会を迎え、国民の健康意識は高まるばかりだ。休日には大勢のウォーカーが遊歩道を闊歩する。歩くことが生活習慣病の予防に役立つことはすでに常識だ。ウォーキング人口は平成12年に3600万人を数え(内閣府の調査による)、現在は4000万人と推定される。平成5年にはジョギングを超し、全スポーツの40%を占めるに至った。今回は、ユニバーサルデザイン・スポーツ(ユニスポ)としてのウォーキングを、その魅力と社会的な広がりから紹介する。
【写真:ウォーキング】
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ウォーキングを草の根で支える日本ウォーキング協会
スポーツとしてのウォーキング
生活習慣病の予防にも効果的
政府の方針が追い風に
年間2500件以上の大会
ウォーキング大会への参加
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ウォーキングを草の根で支える日本ウォーキング協会 |
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まず訪れたのが東京駿河台に本部をもつ社団法人日本ウォーキング協会。歩くことに生きがいを求める人々の総本山だ。協会内は、ウォーキングシューズやウェアでさながら専門店のよう。棚には国内外で開催されるウォーキング大会のチラシが所狭しと並んでいる。旅行会社の企画もあるが、そのほとんどが全国のウォーキング協会主催によるもの。草の根的な盛り上がりを改めて実感する。
【写真:社団法人日本ウォーキング協会 東京オリンピックが開催された1964年に東京で「歩け歩けの会」として誕生。1983年、環境庁(当時)の認可団体となるが、運営方針はボランティア精神による受益者負担で、国庫補助は受けていない。2000年、社団法人日本ウォーキング協会に改称し、現在は全国40都道府県のウォーキング協会の中心団体として全国への普及を推進している】
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スポーツとしてのウォーキング |
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日本ウォーキング協会の会員は現在約2万5000人を数え、伸び続ける傾向にあるという。年齢層は小学生から70代くらいと幅広い。中心層は50〜60歳。男性は定年後が多く、女性は子育てが一段落する層が中心だ。今回お話を伺ったのは同協会指導部長の高部郁夫さん。ウォーキング年齢では最年長クラスの70歳とのことだが、少なくとも10歳は若く見える。それもそのはず、若い頃は高校野球で慣らし、社会人になってからもリトルリーグの監督を13年間務めたスポーツマンだ。監督を引退したのは、加齢とともに選球眼やフットワークが衰えたためだと言う。フィルディングをこなせなければ指導はできないというのが信念だ。そんなある日、友人からウォーキングを進められ、年齢を問わないスポーツとしての魅力に取り憑かれてしまう。
「ウォーキングはスポーツです。ぶらぶら歩きでは効果が少ないので、やや早めに歩くように指導しています」と高部さん。長く歩いても疲れないコツは、背筋を伸ばした姿勢で踵から着地し、体重移動をさせながら指のつけ根でキックするローリングにあるという。「脂肪の燃焼や血液の循環をよくするためには、最大心拍数(220から年齢を引いた数字)の60〜75%を維持する有酸素運動が効果的です。服装は気温に合わせて調整できるよう、薄着を重ね着するのが基本です」
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【写真左:スタート前のストレッチング 長距離を歩くためには十分な準備運動が欠かせない 写真右:高部郁夫氏 協会の運営に携わる傍らスポーツとしてのウォーキングを指導】
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生活習慣病の予防にも効果的 |
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ウォーキングは心機能をはじめ、高血圧症、動脈硬化、肝機能、糖尿病、腰痛、老化といったさまざまな生活習慣病の予防に効果をもつ。予防にとどまらず、疾病の治療効果も医学的に証明されているほどだ。
ほかの楽しみと連動してウォーキングに取り組む人々も多い。名所を訪ねての歴史探訪がその代表。特に市街地は史跡や再開発などのスポットに事欠かない。他にも公園や美術館めぐり、うまいものめぐり、写真撮影など、趣味と実益の組み合わせは多彩だ。中には、郵便局めぐりを取り入れているベテランウォーカーも存在する。コース途中で立ち寄った郵便局で500円ずつ貯金し、通帳をウォーキングスタンプ代わりに活用する発想だ。
高部さんは、そうしたウォーカー向けのコースづくりも行っている。「都内の歩道は平坦で歩きやすいので安心です」と高部さん。地方都市には、水はけのための横勾配で歩きにくい道路が多いという。「ただ、都内でも雨天は要注意です。濡れたマンホールの蓋や鏡面磨きの舗石は、ウォーキングシューズではとても滑りやすく、転倒してけがをすることも少なくありません」。舗装材やシューズのソールには、まだまだ改善の余地がありそうだ。
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【写真左:国内外の大会のパンフレット 大会概要、コース案内、周辺の名所、交通機関、宿泊施設を掲載。ウォーキング大会は観光にも貢献している 写真右:スサノオ神社 (東京都荒川区) 健康のためのウォーキングに名所めぐりなどの楽しみをプラスする人が多い】
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政府の方針が追い風に |
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ウォーキング人口の飛躍的な増加は、政府の方針に負うところが大きい。日本ウォーキング協会は、環境庁(当時)の認可団体として発足したが、現在は厚生労働省と国土交通省とのつながりも深い。
「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)を掲げる厚生労働省は、疾病を防ぐ一次予防に重点対策を置き、「食生活・栄養」や「身体活動・運動」など九つの分野について、2010年をめどとする具体的な数値目標が定めた。「身体活動・運動」の領域では、誰もが取り組めるウォーキングを重視。日常生活における歩数として、男性で9200歩、女性で8300歩を目標に掲げている。
国土交通省は2005年、日本ウォーキング協会主管で発表された「歩きたくなる道500選」の公募事業を後援した。事業の目的は、観光と地域振興だ。サービスシステムの整備や景観の改善、イメージづくりなどを行い、「車優先から人優先」社会への転換をスローガンに掲げる。環境省が推進するエコツーリズムにも通じる考えだ。選考作業には多くのウォーカーが自らの足で参加。民間主導による選定方式は珍しいという。 |
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年間2500件以上の大会 |
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ウォーキングを始めてしばらくたつと、大会に参加したくなるもの。国内には数多くの大会があるが、認定機関は国際市民スポーツ連盟と国際マーチングリーグの2つの国際団体に集約される。現在、日本では年間で全国2500以上の大会が開かれ、延べ100万人程度が参加しているという。中でも最大規模を誇るのが東松山で開催される日本スリーデーマーチだ。国内外の8万人を超えるウォーカーが5km〜50kmの5つの距離コースに分かれ、3日間のルートを踏破する。期間中、体力に合わせてコースを変更するのは自由。車いすの利用者や高齢者、幼児向けには、10kmコースの一部を利用する「ゆっくりウォーク」が、ボランティアスタッフのサポートのもと用意されている。
【写真:分岐点での道案内 運営はボランティアのスタッフに支えれている】
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ウォーキング大会への参加 |
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今回参加したのは日本ウォーキング協会と日本ゴム履物協会主催の「第9回くつの日記念ウォーク全国大会」。江戸東京博物館をスタートして神田明神にいたる13kmのコースだ。
午前9時、スタート地点には大勢のウォーカーが集合していた。ボランティアのスタッフからコースマップと参加バッジをもらい、準備運動のために整列する。平均年齢は60歳前後。茨城から参加の男性は定年後の健康維持と楽しみでウォーキング大会に参加しているという。全国行脚の証明である参加バッジが帽子やリュックサックを飾る。昨年は夫婦で参加したが、今回はひとりとのこと。常連の参加者には顔なじみが多いらしく、あちこちで挨拶と談笑の声が聞こえる。
ストレッチングと簡単なコース説明の後、ボランティアスタッフの声に励まされて一斉にスタート。競争ではないので参加者に緊張感はない。後頭部を直射日光から守るため、帽子の下にバンダナをぶらさげる「アラブスタイル」が目立つ。リュックのポケットには500ミリリットルのペットボトルが2〜3本。コンビニや自販機がいくらでもあるのにと思うが、水分補給のタイミングを考えてのことだろう。
ウォーカーの障害は自動車だが参加者は、ウォーキングマナー五箇条のひとつ「信号で、あわてずあせらず待つ余裕」を厳守。マップを確認したり、ストレッチングをして青信号を待つ。しばらくすると、先頭と後続集団がばらけてくる。道に迷わないか不安がよぎるが、分岐点で、ウォーキング協会のボランティアスタッフが道案内をしてくれているので安心だ。 コースは両国から隅田川テラスに入る。隅田川の堤防の補強をかねて整備された遊歩道で、段差のない道がどこまでも続く。所々に植え込みやベンチがあるので、休憩場所には事欠かない。信号がないので徐々にペースが上がっていく。それにしても高齢ウォーカーの健脚ぶりには驚くばかり。時速6kmのスピードを維持しつつ、おしゃべりを楽しんでいる。
佃島で隅田川テラスと別れを告げ、八丁堀を抜けると正面は東京駅だ。興味深げな、半分呆れた視線を投げかけてくるビジネスマンたち。この暑い中を何が楽しくて・という声が聞こえる。ところがこちらは楽しんでいるのである。疲労は感じるが、移りゆく風景や風の流れがそれを癒やしてくれる。
日本橋から駿河台の歩道では、改めてその歩きやすさを見直した。道幅の広さや舗装材、段差の少なさなど、車いすでの移動にも支障はない。特に、靖国通りの街路樹は貴重な木陰を提供してくれている。
11時30分、ゴールの神田明神へ到着。所要時間は2時間20分。それよりも20分も前にゴールした達人がいるかと思えば、1時間後にゆっくりとたどり着く人もいた。どの顔にも疲れは見えない。自分のペースで完歩したためだろう。記念式典に参加した後、次の大会に向け足取りも軽く会場を後にしていった。
ウォーキング大会に参加して実感したのは、勝負や記録にとらわれない達成感だ。今後もウォーキングは、生涯スポーツとして幅広い人々に愛好され続けるに違いない。
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【写真左:競争ではないので緊張感はない。和やかな雰囲気でスタート
写真右:大会参加バッジはベテランウォーカーの勲章
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【写真左:隅田川テラス 段差のない道がどこまでも続く。所々に植え込みやベンチがあるので、休憩場所には事欠かない 写真右:佃島 タイムスリップしたような静かなたたずまいと高層マンションが織りなす風景に足が止まる】
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【写真左:靖国通り 炎天下ではプラタナスの木陰が心地よい 写真右:ゴールの神田明神 それぞれのペースでたどり着く。足取りに疲れは見えない】
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【写真左:大会後のウォーキング教室 バランスウォーキングを実体験。指導者は高部さんバランスウォーキングを実体験。指導者は高部さん 写真右:くつの日の記念式典手締めで完歩を祝する】
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