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#47 凸版印刷のユニバーサルデザイン |
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− 情報コミュニケーションにおけるユニバーサルデザインの考え方とパッケージデザインでの実践 − |
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曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員 |
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われわれの生活環境は商業印刷に彩られている。例えばコンビニの棚に所狭しと並ぶパッケージや雑誌。思わず手に取ってしまうのは、商品もさることながらそれを伝える訴求力によるところが大きい。商品とのコミュニケーションが購買意欲を左右するのである。凸版印刷はそうしたコミュニケーション・メディアのリーディング・カンパニーだ。メーカーと消費者との良好な関係づくりを行う総合的な提案と製作をビジネスとしている。今回はパッケージ商品本部の山下和幸氏と経営企画本部の松村友彦氏を訪問し、凸版印刷のUDへの取り組みとビジュアルの実践例を取材した。
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【写真左:社内に設けられたパッケージのショールーム、写真中央:松村友彦氏 経営企画本部 企画戦略部 課長、写真右:山下和幸氏 パッケージ事業本部 企画本部 部長】
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「ユニバーサルデザイン考」展がもたらしたもの
先端テクノロジーにおける他企業との共同開発
既存パッケージデザインの診断システム
パッケージの新規開発
消費者ニーズへの気づき
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「ユニバーサルデザイン考」展がもたらしたもの |
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同社は2001年秋に「ユニバーサルデザイン考」展を主催。他社に先駆けて情報コミュニケーションを中心とするUDの考え方や取り組みを披露した。商業印刷、証券・カード、パッケージ、建装材といった事業領域を中心に、製品や店舗といったさまざまな場面での情報のUD化を展示し、産業界やデザイナーに大きなインパクトを与えた。
そもそも凸版がUDに取り組むきっかけはなんだったのか。パッケージ事業本部企画本部の山下部長によると、以前からUDは各事業部の共通意識だったという。例えば商業印刷では、飲食店のメニューを多様な消費者にアピールする方法を模索していた。商印事業本部、建装材事業部、パッケージ事業本部の有志が情報交流や勉強会を進めるうちに、全社的な取り組みが必要との認識が高まり、2000年にUDのプロジェクトチームを発足。そこから活動が一気に加速する。まず、凸版の事業コンセプトとなるユニバーサルデザイン6原則を打ち立てた。同時に、全事業部を巻き込んだ活動を開始していった。
プロジェクトチームはそうした成果発表の場として「ユニバーサルデザイン考」展を企画するとともに、知識を全社的に活用できる組織形態を模索した。こうした場合、メーカーであれば専門のUD室を設けるのが普通だ。しかし、凸版はあえてその方法をとらなかった。自動車や家電のように専門セクションに任せたものづくりをする業態ではないためだ。仕事は同時多発でリアルタイムに進行する。大勢の人材がかかわるので、全員がUDの視点をもっていなければ製品に反映できないのである。そこでパッケージ分野では、北海道から九州まで全国各地にあるエリア事業部にUD担当を置くことにした。東京や大阪といった全国のセンター機能をつかさどる事業本部には複数名を配置。本社経営企画本部にも担当者を置くことで、企業活動としてUDを実践する体制を整えた。
例えば金融証券事業本部の場合、通帳やキャッシュカード、ICカードやパンフレット類はもちろんのこと、銀行のロビーをどうやって設計すればよいのか相談を受けることがある。なぜ店舗の設計と思うかもしれないが、銀行と預金者、融資を受ける人との双方向コミュニケーションがビジネスである以上、カウンターでの接客の効率化も仕事の範疇となる。印刷物で伝わりにくい情報ならば映像も提案する。UDを視点とするからこそ、さまざまなメディアを取り込んだ総合的なソリューションが可能となるのである。
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先端テクノロジーにおける他企業との共同開発 |
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メディアは現在、コンピューター・テクノロジーを中心に進化を遂げている。「我々は、消費者の選択肢を広げる意味においてメディアの多様化をUDの一環ととらえています」と松村氏。Eビジネス事業はその一環だ。その中で特に業績を伸ばしているのがNTT東日本、電通、ヤフー、シャープと共同出資しているマピオンである。1日のアクセス数が700万を超える国内最大のインターネット地図情報サービスだ。ユーザーは住所や郵便番号から、全国の地図を無料で検索できる。地図をクリックすることで縮小・拡大でき、主要施設の詳しい内容を知ることも可能だ。
鉄道の改札も身近な事例だ。現在、主流は切符から磁気カード、そして非接触型のICカードに移りつつある。快適で迅速な利用を可能にしたUDの好事例だが、ここにも凸版のICカード技術が生かされている。同社は他企業との共同開発でこうした先端テクノロジーをいくつも手がけているという。医療情報システムや歩行者ITSを利用した誘導システムといった国家プロジェクトにも積極的だ。松村氏によると、技術そのものの習得はもちろん重要だが、それをどう応用していくかがさらに大切だという。「そのためには、多様な消費者やメーカーのニーズを徹底的に調査し、ソフト・ハード両方からアプローチをすることが欠かせません」。
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既存パッケージデザインの診断システム |
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凸版独自の取り組みには、商品パッケージのUD化を支援するコンサルティング事業がある。「パッケージUD診断システム開発」がそれだ。社内のUD診断士が人間生活工学に基づき、消費者の視点で既存パッケージを分析・診断する。そして、内容や用途に合わせたパッケージデザインの提案を行う。診断情報はデータベースとして体系化され、さらなるコンサル業務に生かされる。2000年にスタートして以来、膨大なデータが蓄積されているという。近くJISの原案としても生かされる予定だ。
UD評価システムでは、パッケージのプロダクトライフサイクル(製造、流通、販売、使用、保管、廃棄)ごとにUDのチェック項目(五感、物理的、心理的要素)を設けている。例えば流通段階では、店員が商品を取り違えにくいデザインが求められる。また、販売から破棄の段階では、消費者にとって識別しやすい、持ちやすい、使いやすい、そして安全といったデザインが必要だ。
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【写真:パッケージの用件 ソフトとハードの視点でパッケージの配慮を明記。生活者の使用場面とともに、パッケージのプロダクトライフサイクルも網羅している。】 |
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【写真:UD診断システム開発 パッケージの用件に基づき、既存パッケージを診断。使いやすさに対する問題点を抽出し、最適なパッケージへの提案につなげる。】 |
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パッケージの新規開発 |
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一方、新規開発製品の成功例には、シャンプーや洗剤の詰め替え用のスタンディングパウチがある。最近、環境問題を背景に詰め替え用パウチの需要が急激に増え、ボトルを上回るようになった。市場シェアの拡大をめざしてパッケージ事業本部が取り組んだのは、パウチのUD化だ。徹底的な調査を行ったところ、行動観察で興味深い結果を得た。10人が10人とも詰め替え方法が違うのだ。きれいにできる人は1人か2人で、8人か9人はこぼしてしまった。
山下氏らが調べたところ、原因のひとつにパウチの持ち方があった。強く握りすぎたり、傾けるときに重心を崩したりしていたのだ。そこで、軽く握れるように右側の側面にくびれをつけた試作品を作った。誰もがつかみやすい形を追求したところ、直径50mmほどに落ち着いた。手がすっぽりとはまるのでパウチを強く握ることが無くなり、傾けたときのバランスも取れるようになった。
試作品では、注ぎ口そのものの形状にも工夫を凝らし、液体が閉塞しない構造にした。さらに、注入口の切り込みに開封しやすいノッチとレーザー加工を入れたほか、切り取った部分が下に折れて本体に留まる工夫も凝らした。細かいゴミを出さないためだ。生産コストの関係上、こうしたコンセプトモデルの仕様すべてが商品化に結びつくわけではないが、より優れた商品を開発するためのステップになることは間違いない。UDとは常にスパイラルアップするプロセスそのものだからだ。
【写真:スタンディングパウチのコンセプトモデル くびれ部分に手がすっぽりとはまるので詰め替え時のバランスが取りやすい。】
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消費者ニーズへの気づき |
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「パッケージには大きく二つの機能があります」開発商品を手にした山下氏が印象的なコメントを述べる。「ひとつは輸送や保存における安全と効率。壊れにくく、衝撃で蓋が緩むことがあってはなりません。もうひとつは中身や利用方法を伝えるコミュニケーションと使い勝手の機能です。ただし、これらは開封しやすさと緩みにくさという矛盾をはらんでいる。これらをいかに両立させるかがUDの課題ではあります」「ただ、安全や効率化の技術はさほど問題ではありません。大切なのは、多様な消費者ニーズに気づくことです」。 社会の変化とともに、商品を送り出すメーカーと消費者との間にコミュニケーションギャップが生まれている。企業はそのギャップを解消しなければならない。さもなければ市場シェアの拡大はおろか、生き残ることも困難になるだろう。凸版の取り組みは、根本的な企業コミュニケーションのあり方に「気づき」を与えてくれている。
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【写真左:レトルトパウチの提案 湯煎した状態で取り出しても熱が伝わらない構造。上部中央部分に切り込みがあるので、重心を保ったまま楽な力で開けることができる。下部の切り込みを利用することも可能。キユーピー株式会社「あえるパスタソース/ミートソース」の内袋に採用されている。写真中央:UDセレクション デザートカップ(指かけ) 利き手にとらわれず、指先の運動機能低下が生じても開封性を保証できるよう配慮している。、写真右:UDセレクション デザートカップ(ねこ)】
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【写真左:麻婆豆腐の素の提案 内容物が「素」のみであることをグラフィックで強調した。中に豆腐などの具材が入っていると勘違いする消費者が後を絶たないためだ。まず、具材を加える調理手順を写真で表示し、必要材料を明記。さらに人数前や調理時間、内袋の形状も一目でわかるように表示した。写真右:詰め替え用クリーナー(裏面)の提案 一般的にメーカーは表で表現したイメージや商品コンセプトを裏面でも表示したがる傾向がある。しかし、消費者にとって必要なのは、具体的な使用方法や安全上の注意だ。そこで裏面の余分な表示は省き、使用方法を破棄まで含めて大きく表示。特に注意表示や誤飲防止にはアイコンを使って目に留まりやすくした。】
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