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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#44 すべての人に贈る、快適さと優しさに満ちた空間。それがロマンスカー
 
二階幸恵/編集者
 
 小田急電鉄のシンボル・ロマンスカーに7代目が誕生した。世界的建築家の手になるそのデザインは、美しさはもとより乗る人への優しさと快適性に満ちたUD空間。新宿から箱根まで約1時間半、旅のプロローグを飾るそのひとときは、誰にとってもかけがえのない思い出の一コマになるだろう。
概要
バリアフリーはメじゃない鉄道はUDそのもの
誰もが快適な居住空間として車両をデザインする
伝統の連接技術が走る街路空間を支える
なんとなくほっとするUDの一つの姿がそこに
都市づくりのツボ
概要
 
新宿〜箱根湯本間を結んで走る7代目ロマンスカー photo:小田急電鉄 「旅情」という言葉がこれほど似合う列車もない。1935年の運転開始から70年、7代目のロマンスカーは、すべての人に快適さと優しさを贈るユニバーサルデザインの神髄とともに走り出した。
【写真:新宿〜箱根湯本間を結んで走る7代目ロマンスカー photo:小田急電鉄】
 
 2005年3月19日、小田急電鉄の新型ロマンスカーVSE(Vault Super Express)が運行を開始した。「段差のある平面は皆無なのが隠れたスペック」という、UD仕様の列車である。
計10両の車両のうち、特殊車両として多目的トイレやカフェ等特殊機能が集められた3号車と8号車の扉は幅900mm。8号車では最新の自動スロープで車いすでの乗降も素早く安全に行える。車いす使用者用シートは簡単な移乗はもちろん、空の車いすをそのままシートにベルトで固定でき、通路も十分な幅員をとっている。
多目的トイレは鉄道車両では初めてオストメイトを標準装備し、複数ある非常用ブザーは転倒時の使用を考慮して低い位置にも設置された。車両内の手すりや握り棒には点字がつけられ、液晶画面で提供される各種の情報の中には日英中ハングルの4種類の言語を使用している。
 
特殊車両内の多目的トイレ入口。木目と曲線が目に優しい photo:中谷正人   オストメイト、手すり、非常用ブザーが標準装備される photo:中谷正人   安全性と高速作動を兼ね備えた、車いす用自動スロープ photo:富岡甲之
 
【写真左:特殊車両内の多目的トイレ入口。木目と曲線が目に優しい photo:中谷正人、写真中央:オストメイト、手すり、非常用ブザーが標準装備される photo:中谷正人、写真右:安全性と高速作動を兼ね備えた、車いす用自動スロープ photo:富岡甲之】
 
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バリアフリーはメじゃない鉄道はUDそのもの
 
 このようによく考えられたロマンスカーだが、UDとしての本質は実は別にある。それは小田急電鉄が主な乗客として想定する中高年齢者や加齢にともない障害を持った人のためにバリアを設けないだけではなく、ロマンスカーに乗るすべての人に快適さと優しさとを贈るものなのだ。
 トータルデザインを任されたのは岡部憲明さん。パリのポンピドゥーセンター設計チームに参加、関西国際空港旅客ターミナルビルの設計者として知られる建築家である。建築の他に客船や車の設計も手がけた経験を持つ岡部さんは「鉄道は誰でも乗れる、あらゆる人が使えるという部分で建築以上に公共性が高い施設。まさにUDです」
 「船でも車でもない、観光特急というアットホームな鉄道ならではの良さは何か、を白紙から考えた」とロマンスカーへの強い思い入れを語る。設定されたコンセプトは「空間性」「居住性」そして「眺望性」。「UD」が見当たらないのは、それがすでに大前提であることにほかならない。
 
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誰もが快適な居住空間として車両をデザインする
 
高いヴォールト天井と間接照明が生んだ豊かな空間 photo:小田急電鉄 「鉄道はレールの上を水平移動し、窓の外の風景も真横に進む。これは居住空間にとても近い空間がそのまま移動している感じのものです。この空間を考えることはすなわち、新たな居住空間の拡張性を考えること」
 UDそのものである鉄道を新たな居住空間として考える時、それでは何が大切だったのだろう。
 「居住空間の本質はボリュームです。これをどうやって持たせるかをまず考え、出てきたのが天井をヴォールト(ドーム型)にすることでした」
【写真:高いヴォールト天井と間接照明が生んだ豊かな空間 photo:小田急電鉄】
 
特殊レンズで光源を見せない、新開発の電球色LED photo:中谷正人 通常は車両の上に載る空調をシステムから見直し、室外機は床下、室内機は出入口に置くことで天井高を従来の2100mmから2550mmという鉄道車両の室内としては驚異的な数値に押し上げた。これによって鉄道離れした豊かな空間ボリュームを実現。荷台部分から出る空気を天井のヴォールト部分でぶつからせ拡散させる空調も、一つの理想型である。
 ヴォールト天井を選択した時点で自動的に照明は間接と決まった。岡部さんはここでも一計を案じる。
「人間にとっていちばんいい光は空から、つまりどこからともなく来るものなのです。だから決して光源を見せず、なおかつ優しい光をつくりたかった」
 ヴォールト天井を照らす電球色(3000ケルビン)の蛍光灯は荷棚の上に隠されて取り付けられる。そして手元用照明には新たな方向が探られた。これが新型LEDの開発につながったのである。窓の上に一直線に配置されたLEDの色温度は2800ケルビンの低輝度で目に優しい電球色。特殊なレンズにより光源は一切目に入らず、しかも航空機の手元ライトのようなピンポイントでもない。「車両全体で視線を横に流し、空間ボリュームを広く保ちたかったのです」
【写真:特殊レンズで光源を見せない、新開発の電球色LED photo:中谷正人】
 
 次は座席だ。鉄道の快適性を左右する座席を岡部さんも最も重視した。
 「厚くて柔らかい椅子より堅い方が実は身体に良くて疲れないんです。だったら固めで薄い、誰が座っても快適な椅子をつくろう。シートピッチも広くとれます」
 ここで採用されたのは、これも鉄道車両としては初の、最新オフィスチェア技術「アンクルチルトリクライニング」。背を後ろに倒すと座面が落ち、体格に関係なくかかとが常に床につけていられるので、姿勢は楽でしかも安定する。足下はすっきりと一脚で支え、空間の広がりを損なわないよう配慮した。
 加えて特徴的なのが、座席の角度を窓側に5度振ったことだ。
 「座席を5度外側に振ることで座る人の視線が自然と外部へ向かい、ランダムに見える座席の隙間から窓外の風景が見えます。これで車内の空間はよりゆったりと見え、忘れていた伝統的鉄道の車窓の雰囲気がよみがえると考えました」
 三大コンセプトの一つである眺望性は、長さ最大4mを誇る連続窓で実現された。旧型ロマンスカーの窓から丹沢の緑が見えたとき、この景色をパノラマで見たいと岡部さん自ら強く感じたという。
 
天井、照明、棚の様子。左から三人目は設計者の岡部さん photo:中谷正人   外側に5度振られた座席で、4mの連続窓からパノラマを楽しむ photo:小田急電鉄
 
【写真左:天井、照明、棚の様子。左から三人目は設計者の岡部さん photo:中谷正人、写真右:外側に5度振られた座席で、4mの連続窓からパノラマを楽しむ photo:小田急電鉄】
 
肘掛けや壁材、テーブル等の内装は本物の木をふんだんに使った photo:小田急電鉄  こうして最新技術やアイディアで細部にまで工夫が凝らされた室内は意外にもいたってシンプルでエレガント。目に入るのはメープル等本物の木材を使った窓枠やテーブル 、暖かみのある昼光色の間接照明そして窓外の風景と昔から人間が見てきたものばかりだ。「ソフトエンバイロメントはUDにそろえました。誰がどんな状況でも明るく暖かく気持ちのいい空間、人間の感覚に優しいものをつくろうと。言い換えれば視覚と触覚に優しい環境の創造です。優しい触覚とは人のDNAに刷り込まれた記憶で、木質はその代表。ここに現代のテクノロジーを入れ、明るくモダンなものと過去からの記憶を同居させます。ここではビス一本も絶対に見せない、それによってできることがあるんですね」
【写真:肘掛けや壁材、テーブル等の内装は本物の木をふんだんに使った photo:小田急電鉄】
 
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伝統の連接技術が走る街路空間を支える
 
 客室以外の空間づくりも徹底している。岡部さんはロマンスカー全体を一つの街ととらえ、客室は居住空間、カフェや通路は街路空間であり、これらを含んだオブジェとしての列車が走ることで都市の風景をも美しくすることをめざした。
 扉部分や各車両をつなぐ連結部分、トイレ内部の床は石を貼り、絨毯敷きの客室の雰囲気とは一線を画している。カフェスペースのフローリングも同様だ。部屋を出て街を散歩する感覚とでも言おうか。ちなみに3両目と8両目のカフェスペースの位置は、どの客室からも30m以内でたどりつけるように決められた。客室とは別感覚のここでは、立って風景を見るために窓を高くし、空調システムで低くなった天井を車両の肩部分のハイサイドライトでカバーしている。
 さらに、快適性を作っている陰の役者がロマンスカー伝統の連結方式「連接台車」である。通常の車両は床下に二つの台車があるが、ロマンスカーは車両と車両の間に車輪があり、車輪はそこにだけ設置される。これにより最新技術である車体傾斜装置等を導入することで加減速時の前後動を抑制する。カーブ通過時の遠心力が軽減され、さらに空気バネを高い位置に保つことで車体の揺れ幅も少ない。
 
扉部分の石貼りの床は、絨毯敷の客室と違い街路的な雰囲気 photo:中谷正人   木調の壁が美しいカフェで煎れたてのコーヒーを味わってみては photo:小田急電鉄
 
【写真左:扉部分の石貼りの床は、絨毯敷の客室と違い街路的な雰囲気 photo:中谷正人、写真右:木調の壁が美しいカフェで煎れたてのコーヒーを味わってみては photo:小田急電鉄】
 
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なんとなくほっとするUDの一つの姿がそこに
 
 「一つの街」を内包して走る列車の姿は美しい流線型だ。暖かみのある白色にマイカ(雲母)を加えシルキーホワイトと名付けられた車体に、バーミリオンストリームのシャープな帯が映える。
 オブジェとしての美が表現されたこの列車が駆け抜ける新宿から箱根までの道のりは、超高層ビルの大都市から緑あふれる大自然へとたった85分で風景スケールが次々に変わるユニークな路線だ。今回復活したロマンスカーのシンボルである展望席からの眺めもぜひ体験したい。前面の大きな曲面一枚ガラスの窓からは広々とした眺望をのぞむことができる。
 「気楽に乗って、なんとなくほっとするなあと思ってくれればいいですね」
 岡部氏のことばに、「なんとなく」しかわからない見えないデザインの中に、すべての人々が享受できる快適さや優しさを内包するUDの姿が重なった。
 
ロマンスカー最前部。美しい流線ボディと連続窓が印象的だ photo:中谷正人   復活した展望席。曲面一枚ガラスの大窓からの眺めは圧巻 photo:小田急電鉄
 
【写真左:ロマンスカー最前部。美しい流線ボディと連続窓が印象的だ photo:中谷正人、写真右:復活した展望席。曲面一枚ガラスの大窓からの眺めは圧巻 photo:小田急電鉄】
 
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