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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#41 21世紀のためのデザイン:第3回UD国際会議
 
−バレリー・フレッチャー所長に聞く−
 
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 
 2004年12月、ブラジルのリオデジャネイロで第3回ユニバーサルデザイン国際会議が開催された。主催はボストンに本部を置くアダプティブ・エンバイロメンツ。設立25年を迎えるNPOで、人間中心デザインの普及啓発と実践で世界的に評価が高い。共催はブラジル自立生活センターで、協賛団体には日本のユニバーサルデザイン・コンソーシアムや国際ユニヴァーサルデザイン協議会をはじめ、米国NEC財団、英国ヘレン・ハムリントラストなどが名を連ねた。
 会議のテーマは社会デザインとしてのユニバーサルデザインである。中心となるのはサステナビリティと人権問題だ。ブラジルが開催地として選ばれたのは、そこに社会問題の縮図があるためだ。ブラジルは、人口約1億7千6百万人を擁する南アメリカ最大の国である。経済発展を続ける一方、人口増加に伴う所得格差をはじめ、環境や犯罪などの都市問題を抱えている。
 先進国においても、長寿化や少子化に伴う高齢社会や生活者の価値観の多様化、消費経済と環境保全の両立など課題は多い。もはやユニバーサルデザインへの期待は建築や製品の領域だけではおさまらない。社会づくりにどう関わるかが問われ始めているのだ。そうした状況のもと、45カ国から400名を超える研究者や実践者、学生たちが参加。意識と情報を共有し新たな社会づくりを展望した。
 今回はユニバーサルデザイン・コンソーシアムの梶本代表理事と主催のアダプティブ・エンバイロメンツ所長、バレリー・フレッチャー氏とのインタビューを紹介する。フレッチャー氏はユニバーサルデザインの指導者として国際的に活躍し、日本とのつながりも深い。
1.ブラジルを第3回UD国際会議の開催地に選んだ理由
2.会議の目的について
3.最後に
1.ブラジルを第3回UD国際会議の開催地に選んだ理由
 
梶本氏 ブラジルを第3回UD国際会議の開催地に選んだ理由は?
フレッチャー氏 私たちは人口問題や経済状況を重視しました。今後100年、人口増と経済発展は発展途上国で起こります。人々はデザインによって仕事や勉強、自立生活、市民参加を享受できたり、逆に妨げられたりします。だからユニバーサルデザインが大切なのです。ユニバーサルデザインは、都市のインフラストラクチャーからデジタル情報にいたるすべてのレベルにおいて、機会均等を促します。問題解決の枠組みを提供してくれるのです。ユニバーサルデザインは市場に強い影響力をもちます。しかし、それだけに注目するのは不十分です。特に発展途上国の場合、爆発的な人口増加を抱えている社会背景や人々の行動様式への影響にも注意を払わねばなりません。ユニバーサルデザインは、手法であるとともに思想でもあります。人々の意識に働きかけ、情報を共有化し、開発にユニバーサルデザインを融合させることでさまざまな社会問題を解決することが可能だと考えたのです。
 ブラジルを開催地に選んだ理由はこのようなメッセージを発展途上国から世界に送るためでした。しかし、一方で物理的なアクセシビリティに問題があるのは確かです。ユニバーサルデザインの基本知識でさえ欠如しているのが現状です。さまざまな人々が集うためには、多少の困難を余儀なくされました。
梶本氏 当初はキューバでの開催を予定されていましたね。
フレッチャー氏 はい、開催地にはハバナを予定していました。キューバは歴史的にデザインへの情熱に溢れています。都市政策当局も我々のイベントを歓迎してくれていました。カリブ海という場所も参加者にとって便利でした。ただ、米国民がイベントを主催するにあたり、特別な許可が必要でした。折衝を重ねたのですが、残念ながら米国政府の方針により計画を断念せざるを得ませんでした。代替地として候補になったのがブラジルです。ブラジルでは人口の80%が都心部に住み、主な行政機関がインクルーシブデザインで主導的な役割を果たしており、デザインや建築の部署では政策も進んでいます。リオデジャネイロでは、数年前に大きな障害者の国際大会が開催されており、基本的なアクセシビリティは整備されていました。最も大切なのは、ルイス・シルバ大統領が「すべての人々のための国家」をスローガンに掲げ、ユニバーサルデザインへの共感を示していることでした。
梶本氏 国際会議は大成功でした。どれくらいの参加者がいたのでしょうか。
フレッチャー氏 35カ国から400名以上が参加者しました。開催地が遠いにもかかわらず、世界中から研究者や実践者、学生が集まり、今までに最も多様な国際会議となりました。ブラジルの参加者は別として、遠方からの参加者には大変は負担だったはずです。ビザの問題では十数名が不参加となりました。資金不足により、数百名の学生の奨学金を援助することができなかったのも心残りです。すべてのセッションに同時通訳を付けたのは今回が初めてです。多大な労力と経費がかかりましたが、すばらしい内容に終始したと思っています。
 
リオデジャネイロ リオデジャネイロは人口550万人の、美しい国際観光都市だ。「世界で最も友好的な都市」とされたこともある。(BBCニュース、2003年6月23日)   リオデジャネイロ リオデジャネイロは人口550万人の、美しい国際観光都市だ。「世界で最も友好的な都市」とされたこともある。(BBCニュース、2003年6月23日)
 
【写真左・右:リオデジャネイロ リオデジャネイロは人口550万人の、美しい国際観光都市だ。「世界で最も友好的な都市」とされたこともある。(BBCニュース、2003年6月23日)】
 
オープニングセッションと参加者たち 45カ国からおよそ400名が参加した   オープニングセッションと参加者たち 45カ国からおよそ400名が参加した
 
【写真左・右:オープニングセッションと参加者たち 45カ国からおよそ400名が参加した】
 
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2.会議の目的について
 
梶本氏 会議の目的についてお聞かせください。
フレッチャー氏 2つあります。発展途上国と先進国との橋渡しをすることと、サステナブル開発の定義にユニバーサルデザインを含めることです。まず、多様な人々の交流を果たしたことで最初の目標には近づいたと思います。もちろん、今後のフォローアップは欠かせません。サステナビリティについても、かなり達成できたと思います。キーノートスピーカーや会議パートナーの指導力により、多くの人々が社会デザインの文脈の中でユニバーサルデザインと環境と社会経済の発展を論じるようになりました。
梶本氏 フレッチャーさんが以前来日された際、私たちの間でサステナビリティとユニバーサルデザインの融合を議論しましたね。
フレッチャー氏 梶本さんは2年前に誰よりも早くこの考え方を示した国際パートナーです。梶本さんの自信は私の支えになりました。サステナブル開発の再定義の時期が適切だったのは、学生コンペの成功でも明らかです。学際的なチームでサステナブルデザインのコンペを催したのは初めてでした。テーマは、環境や社会経済の視点で3つの発展途上国のどこかにコミュニティセンターを計画することです。ハイチのポルトープランス、インドのケララ、ブラジルのロンドリーナの3ヵ所です。過去最高の応募があり、質も大変優れたものでした。学生たちは専門家を凌ぐ思考力を発揮してくれました。
梶本氏 多くの日本人参加者があったようです。日本人と日本企業のユニバーサルデザインへの取り組みについてどのような印象をおもちでしょうか。
フレッチャー氏 国際会議の主催者として、個人として、はるばるリオまで足を運んでいただいた方々に深い敬意を払います。長時間の旅はさぞかし大変だったはずです。日本の皆様のパートナーシップがなければ、国際会議の開催はありえませんでした。ユニバーサルデザイン・コンソーシアムにはまっ先に企業パートナーとして名乗りを上げていただきました。非常に重要な役割を果たしていただき、感謝しています。NEC財団も早期にスポンサーシップを表明いただきました。国際ユニヴァーサルデザイン協議会のリーディング企業には、スポンサーと展示にご協力いただきました。世界第2位の経済大国の中で世界的な成功を収めている企業がユニバーサルデザインを全面的に支持し、方針を発表し、企業活動として推進しているのを目の当たりにして衝撃を受けました。強力な企業のリーダーシップは他国の羨望の的になったことでしょう。
梶本氏 第4回ユニバーサルデザイン国際会議の計画はいかがでしょうか。日本での開催もあるのでしょうか。
フレッチャー氏 次回の計画に進む前に今回の分析をしなければなりません。2年後には日本で会議が開催されることを期待しています。私たちは、心からそのイベントを支持しお手伝いをしたいと望んでいます。アダプティブ・エンバイロメンツは、「21世紀のためのデザイン 〜ユニバーサルデザイン国際会議」の主催者として、国際的な動向に貢献するために最善を尽くします。私たちはユニバーサルデザインとサステナブルデザインの融合に取り組んでいきます。今回はできませんでしたが、6ヶ月以内には宣言を発表したいと考えます。
 
セッション 基調講演と同時セッションの数は200以上。政策や都市計画、教育、製品開発、環境、建築などさまざまな領域の取り組みが発表された。「21世紀のオフィス」では、筆者が日本ファシリティマネジメント協会を代表して発表   セッション 基調講演と同時セッションの数は200以上。政策や都市計画、教育、製品開発、環境、建築などさまざまな領域の取り組みが発表された。「21世紀のオフィス」では、筆者が日本ファシリティマネジメント協会を代表して発表
 
【写真左・右:セッション 基調講演と同時セッションの数は200以上。政策や都市計画、教育、製品開発、環境、建築などさまざまな領域の取り組みが発表された。「21世紀のオフィス」では、筆者が日本ファシリティマネジメント協会を代表して発表】
 
基調講演 都市環境について熱弁する世界建築家協会会長ジャイメ・レルネル氏   交流と情報交換 相互理解を育む参加者たち
 
【写真左:基調講演 都市環境について熱弁する世界建築家協会会長ジャイメ・レルネル氏、写真右:交流と情報交換 相互理解を育む参加者たち】
 
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3.最後に
 
梶本氏 最後に、アダプティブ・エンバイロメンツが計画中のボストンの新しい研究所についてお聞かせください。
フレッチャー氏 名称は、ヒューマンセンターデザイン研究所です。今までに築いた国際的な業務や関係性に基づき、情報交換や研修、研究のハブとなることをめざしています。アカデミックとビジネス両パートナーと連携した都市型施設で、施設環境におけるあらゆるユニバーサルデザインを実現します。そこは、学生や研究者が自由で柔軟な研究活動におこなうのに最適な空間になります。
 展示スペースでは、世界各国からの最新のユニバーサルデザインを巡回展示します。Webサイトでは、広範囲なユニバーサルデザインのアーカイブを多国語表示で構築して研究所の活動を補完したり、遠隔学習のためのフォーラムを提供したりします。
 優先する研究は、社会経済と環境を融合したサステナブルデザインで、職場、家庭、学校や医療機関、都市環境、そしてインフラストラクチャーが対象となります。また、脳の認知や人口増加の問題についても特別に研究します。
 もちろん、高齢者や障害のある人々に「ユーザーエキスパート」として参加してもらう伝統を継続します。ユーザーエキスパートは数年前にイレーン・オストロフによって提唱されました。さまざまな身体や知覚能力をもち、専門的な知識や経験を併せ持つユーザーグループを示します。今年中に研究施設の発表を行う予定で、参加希望パートナーへの趣意書を作成中です。
梶本氏 過去3回の国際会議をはじめとする今までの実績をもとに、いよいよ本格的な研究所の設立に乗り出すわけですね。日本でもユニバーサルデザインは普及啓蒙から実践活動の段階に入っています。私たちユニバーサルデザイン・コンソーシアムも、アダプティブ・エンバイロメンツとのパートナーシップを通してグローバルな日本型ユニバーサルデザインといえるべきものを追求してまいります。
 
オープニングレセプション 参加者を代表して挨拶するユニバーサルデザイン・コンソーシアムの梶本代表理事 左はバレリー・フレッチャー氏   国際学生コンペ テーマは発展途上国のコミュニティセンターの計画。高レベルの作品が並ぶ
 
【写真左:オープニングレセプション 参加者を代表して挨拶するユニバーサルデザイン・コンソーシアムの梶本代表理事 左はバレリー・フレッチャー氏、写真右:国際学生コンペ テーマは発展途上国のコミュニティセンターの計画。高レベルの作品が並ぶ】
 
フレッチャー氏と梶本代表理事   当時の版画 電化による線路の地中化により、煤煙公害や交通事故が激減した。
 
【写真左・右:フレッチャー氏と梶本代表理事】
 
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