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#40 多様性の時代のグッドデザイン:韓国ユニバーサルデザイン展 |
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曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員 |
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2004年末、韓国でユニバーサルデザイン国際シンポジウム(11月12日〜15日)とユニバーサルデザイン展(11月12日〜12月12日)が同時開催された。会場はソウル・アーツセンターにあるハングラム・デザインミュージアム。同センターは、ソウルオリンピックが開催された1988年に開館した韓国屈指の総合芸術施設である。ソウル市南端の広々とした丘陵地帯にオペラハウスやコンサートホール、デザインミュージアム、アートギャラリーのほか、国立音楽院や国立芸術大学を擁する。当初は財団法人だったが、現在は特殊法人ソウル・アーツセンターとして運営を継続している。今回のイベントは、同センターとハングラム・デザインミュージアムの共催で、韓国の文化観光省や国土交通省、スウェーデン大使館などが後援している。今回はそうした展覧会をとおして韓国のユニバーサルデザインの現状を探る。
【写真:ソウル・アーツセンター内ハングラム・デザインミュージアム 日本に先駆けて設立されたデザインミュージアム】
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目的と社会背景
シンポジウムとワークショップ
展覧会
実践を知るコーナー
買い物客で賑わう商業空間
機能的な文化財
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目的と社会背景 |
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韓国がユニバーサルデザインの国際的なイベントをおこなうのは今回が2回目である。4年前の2000年11月に開催されたミレニアム世界環境デザイン会議が最初だ。国内外から著名な研究者や実践者を招聘し、世界に向けてデザインの新たなパラダイムを打ち出した。環境デザインにグリーンデザインや文化デザイン、デジタルデザイン、ユニバーサルデザインを含めた社会デザインとしての枠組みは世界の専門家の注目を集めた。
今回の目的は、ユニバーサルデザインの一般への普及啓発が主である。その背景には、日本と酷似した社会事情が横たわる。
第一が高齢社会への対応だ。国連の人口推計によると、韓国の高齢者率(65歳以上の人口比率)は2000年に7%を記録。2020年には倍の14%、2029年には20%に達することが見込まれる。7%から14%にいたる急速な高齢化の速度は日本のそれと匹敵する。今後世界で最も高齢化が進むのは日本と韓国なのである。
第二が価値観の変化だ。ソウル・アーツセンターのYongbae Kimセンター長によると、かつて韓国のデザインは産業振興の道具に過ぎなかった。工業化の進展とともにデザインの重要性が重視されるようになり、今後は産業よりも生活環境と生活の質にデザインがどう関わるかが問われる段階に入っている。デザインが国の文化成熟度や先進性を測る物差しであることを考えると、いかに韓国の発展がめざましいかがうかがえる。さらにKim社長は同展のカタログにおいてユニバーサルデザインを第二のルネサンスと位置づけ、「中世、ルネサンスは宗教の呪縛から人間性を解放した。ユニバーサルデザインは工業化によって見過ごされてきた人間性を問い直し、人間本来の生活と人工的な生活環境との関係性を両立させてくれる」と結んでいる。韓国はもちろん、世界的なメガトレンドの示唆として興味深いコメントだ。
【写真:ソウル漢江(はんがん)沿岸に立ち並ぶ高級マンション 工業社会は豊かなミドルクラス層を生み出すとともに地価の高騰や住宅難といった問題をもたらした】
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シンポジウムとワークショップ |
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国際シンポジウムのテーマは「グローバル社会のユニバーサルデザインと未来〜福祉と産業振興を約束するインフラストラクチャーとしてのデザイン」である。Yeunsook Lee教授の基調講演の後、スゥエーデンのKerstin Wickman氏やDog Klingstedt氏、米国のRoberta Null氏やKaren Franck氏、スイスのKaj Noschis氏が、日本からは京都大学の高田光雄氏、金沢芸術工芸大学の荒井利春氏、共用品推進機構の星川安之氏、トライポッド・デザインの中川聡氏、そしてユニバーサルデザイン・コンソーシアムの曽川が約300名の聴衆を迎えて講演をおこなった。引き続いておこなわれたワークショップにも学生を中心に熱心な聴衆が参加。特に若い世代のユニバーサルデザインへの関心が印象的だった。
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【写真左:共用品推進機構星川専務理事 日本におけるアクセシブルデザインの動向を発表、写真右:ワークショップの参加者 学生を中心とする若い世代の関心が目立つ】
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展覧会 |
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展覧会はユニバーサルデザインを理解するコーナーとその実践を知るコーナーの2部構成である。企画を担当したのはYeunsook Lee教授で、ミレニアム世界環境会議のディレクターを務めたことでも知られている。
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【写真左:展覧会場 シンボルマークはBojakiをデザインしたもの、写真右:Yeunsook Lee教授 来賓の内覧会で展覧会の会場構成を説明】
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まず、ユニバーサルデザインを理解するコーナーでは、韓国のユニバーサルデザインの捉え方が目を引く。ここでは紙人形のディスプレイで伝統的な生活と現代を対比させながらユニバーサルデザインを表現している。キーアイテムはBojakiと携帯電話。Bojakiは韓国の風呂敷である。梱包はもちろんのこと、食品などの保護、インテリアやファッション、怪我をしたときの三角巾の代用など、昔からさまざまな生活シーンに用いられてきた。利用の柔軟さはまさにユニバーサルだ。Lee教授はBojakiをユニバーサルデザインの象徴と位置づけ、それを見出した韓国人の精神文化にユニバーサルデザインへの先進性と適応性を訴える。一方の現代のデジタル社会におけるユニバーサルデザインの象徴が携帯電話だ。通信や娯楽、ショッピングや教育、写真やビデオ撮影といった利便性で若年者を中心にユーザー層を広げ、今や不可欠な情報メディアとして定着した。Bojakiがタンジブルなユニバーサルデザインだとすると、携帯電話はインタンジブルなそれである。これからのデジタル社会には双方のバランスが大切だということだろう。
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【写真左:Bojaki 紙人形による伝統文化のディスプレイ、写真中央:Bojaki 壁面に展示された韓国の伝統文化、写真右:携帯電話 紙人形による携帯電話を使った生活シーンのディスプレイ (C)星川】
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さらにこのコーナーには、Lee教授が中心になって考案した新しいUDの原則が掲げられている。特徴は7原則に沿って「美しいユニバーサルデザイン」を強調していること。Deep(熟考された)、Ethical(道徳的)、Sensible(分別を持つ)、Integrative(平等)、Gentle(親切)、Nourishing(希望を抱かせる)、Usable(使用に適した)、Normalizing(普通)、Inclusive(包括的)、Versatile(多面的)、Enabling(実行力をもつ)、Supportive(協力的)、Accessible(接近・利用できる)、Legible(わかりやすい)、Benign(優しい)、Enhancing(価値や可能性を高める)、Adorable(敬慕に値する)、User-friendly(利用者の役に立つ)、Touching(人の心を動かす)、Inspiring(鼓舞させる)、Flexible(柔軟)、Useful(有益)、Loving(愛される)といった24の視点が基本である。
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実践を知るコーナー |
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続いてユニバーサルデザインの実践を知るコーナーでは、24の視点に基づく多様で美しいデザインを展示している。目的別に成長のためのデザイン、高齢のためのデザイン、執務環境のためのデザイン、身体機能のためのデザインに分類し、それぞれの特徴、例えば福祉を超えた機能、工夫、気配り、生産性、快適性、審美性といったものを効果的に展示。従来バリアフリーに偏りがちだった展示風景を斬新なデザインの催しとして演出している。出展者は、ユニバーサルデザインの研究所としてイギリスのヘレンハムリン研究所やスウェーデンのエルゴノミデザイン、日本のATCエイジレスセンターや共用品推進機構、ドイツのセンサ、アメリカのミシガン州立大学パッケージング学部が研究成果や事例を発表。一方の産業界からは、アメリカのハーマンミラーやアメリカン・スタンダード、スマートデザイン 、デンマークのFlexa、日本のコンビやトヨタ、トライポッド、ドイツのHEWIやOttoBock、フランスのBeBe Confort、そして韓国のSechang Shoe Lab、HanssemおよびTriGem Computerが成功事例を展示している。
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【写真左:HEWI社のバスルーム製品 75年の歴史をもつドイツの企業。バスルーム環境の総合的なソリューションをラインナップ、写真中央:Sechang Shoe Labの靴 リハビリテーションやアシスティブ・テクノロジーに特化した韓国の製靴メーカー、写真右:Trigem Computer社のコンピュータ 1980年に創業された韓国のベンチャー企業。人とITとの新しい関係を提案し続けている】
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国策としてのデザイン振興が功を奏し、韓国のデザインはめざましい躍進を遂げている。一般的なユニバーサルデザインの認知度が高いとは言い難いが、急速な高齢社会を目前に、産業界の取り組みや国民の意識が加速度的に向上することは間違いない。今回のシンポジウムと展覧会が契機となり、使いやすさと美しさを兼ね備えたユニバーサルデザインが社会のさまざまな場で創り出されることを期待したい。
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