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#38 松下グループのユニバーサルデザインラボとUD商品 |
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曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム主任研究員 |
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10月5日、東京・有明にユニバーサルデザイン研究の新しい体験型施設が誕生した。松下電器産業がリニューアルオープンした「パナソニックセンター東京」内のユニバーサルデザインラボだ。同センターは「先進・未来」をキーワードに、UDのほかユビキタスや環境への取り組みと商品開発のプロセスを披露したり最新技術を体験できるコーナーを設置するなど、人気スポットとして注目を集めている。同社企画運営室広報担当の北村氏によると、平日は社会人、週末は家族連れで賑わっており、リニューアル前に比べ来館者数はアップしているという。今回は、ユニバーサルデザインラボとともに、その思想を反映する製品が展示された、国際福祉機器展(東京国際展示場で10月13日から15日に開催)松下グループ(松下電器・松下電工)のユニバーサルデザインゾーンを紹介する。
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【写真左:パナソニックセンター東京 「未来に向かっての夢実現〜先進・未来」をコンセプトに、「ユニバーサルデザイン」「ユビキタスネットワーク社会」と「地球環境との共存」への取り組みが体験できる。写真中央:デジタルネットワーク・ミュージアム 子どもたちや家族連れの人気スポット、写真右:探検キッズのコーナー 電気製品のしくみや科学のふしぎなどの情報が、わかりやすくWebにて紹介されている。】
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UDの考え方や製品開発を伝えるユニバーサルデザインラボ
ユニバーサルデザインの6要素をパネルと製品で紹介
国際福祉機器展でのUD製品の展示
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UDの考え方や製品開発を伝えるユニバーサルデザインラボ |
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ユニバーサルデザインラボでは、松下グループのUDの考え方や製品開発を支える研究を体験できる。入口では、パネルやディスプレイで考え方を伝えるコーナーが目に留まる。故ロナルド・メイスの映像が流れる傍ら、同社UDの基本6要素がイラスト付きで紹介されている。この要素を製品や取扱説明書、梱包、カタログに反映させ、総合的な満足度の向上に取り組む。企画開発の段階からユーザーの視点に立っていることがUDとしての特徴だ。「移動と空間」までを含むのは、グループが生活環境すべてを扱っているため。家電から住宅設備、建材など、まさに居住空間を丸ごと開発・製造・販売する体制をもつ以上、移動と空間への配慮は欠かせない。
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【写真左:ユニバーサルデザイン・ラボ 松下グループのUDの考え方や製品開発を支える研究を体験できる。写真右:エントランスのパネルと映像 故ロナルド・メイスの映像と同社UDの基本6要素を紹介。】
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*松下グループUDの基本6要素*
- 理解しやすい操作への心配り
- わかりやすい表示と表現への心配り
- 楽な姿勢と動作への心配り
- 移動と空間への心配り
- 安心・安全への心配り
- 使用環境への心配り
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ユニバーサルデザインの6要素をパネルと製品で紹介 |
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ラボは基本6要素のパネルと製品展示に沿って構成されている。最初の「理解しやすい操作への心配り」のコーナーでは、報知音の研究成果を体験できる。報知音は洗濯機や炊飯器といった家電には欠かせない機能である。操作状況や運転の終了が離れた場所でもわかるので、誰にとっても便利だ。誤操作を防ぐためにもなくてはならない。ここでは、報知音の種類によって家電を当てたり、音の長さや間隔、繰り返しの回数で「せきたてている感じ」なのか「ゆったりとしている感じ」なのか体験できる。
次の「わかりやすい表示と表現への心配り」のテーマは、色覚の多様性である。白内障がその一つ。白内障は水晶体の白濁および黄変化で起こる。高齢になれば誰もがかかる症状である。ただし、黄変化がオレンジ色の視界変化をもたらすわけではない。脳が補正機能をもつためだ。白内障ではむしろ短波長を拾いにくくなるために、青みが感じにくくなる。また、30ルクスの照度下で白抜き文字や淡い背景色などが見えにくくなる。同社が開発した疑似体験ゴーグルをかけると、こうした視覚変化を体験できる。
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【写真左:「理解しやすい操作への心配り」報知音の研究成果を体験できる。写真右:「わかりやすい表示と表現への心配り」疑似体験ゴーグルで白内障の視覚変化を体験できる。】
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もう一つが色覚障害だ。色盲では、赤か緑のいずれかの色を識別できない赤緑色盲が大半を占める。同社の研究チームは赤緑色盲がかなりの色を見分けていることに注目。その中で、子どもから高齢者まで誰にでもはっきりと見やすい色である黄色を製品のスタートボタンの共通色に採用した。黄と青は色弱者で色の見え方が変化しにくいことと、その中で黄色ボタンは文字がはっきり見えることが理由だ。
「楽な姿勢と動作への心配り」では洗濯機を例にあげ、楽な姿勢で衣類の出し入れを可能にするドラム角度の研究を報告。「ななめドラム洗濯乾燥機」を展示している。この商品は昨年の発売以来、当初予想の2倍を売り上げるヒット商品だ。成熟市場の白物家電にUDの価値を生み出したことが評価されている。ここでは、縦型と横型ドラムを見立てた洗濯機のアクリルモデルを並列。カラーボール取り出す作業でそれぞれの使い勝手を体験させている。実際に試してみると、斜め型の方が楽にドラムの底に手が届き、衣類の出し入れがしやすいことがよくわかる。
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【写真左:色覚障害の色の見え方 スタートボタンの共通色である黄色が導かれる。写真右:「楽な姿勢と動作への心配り」 「ななめドラム洗濯乾燥機」でカラーボールの出し入れを体験して姿勢や負担を検証できる。】
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移動と空間への心配り」では、車いすを使って間仕切り開閉壁「スクリーンウォール」の出入を体験できる。上吊タイプで軽い力で開閉できる上、レールが無いのでスムーズな移動が可能だ。ウォール底部と床面にはマグネットが埋め込まれており、磁力で揺れを防いでいる。
「安心・安全への心配り」では、ICタグを使った探知システム「ものしりトーク」を紹介している。形や手触りだけでは区別しにくいものにICタグをつけ、リーダーで物品の内容を音声発信させるしくみだ。ICタグは直径2cmほどの大きさ。医薬品や食料をはじめ、衣料、書籍、CDなどに使用できる。音声登録操作は簡単で、対象物のタグにリーダーを近づけて録音ボタンを押しながら喋るだけ。10秒で300件の登録が可能という。
最後に「使用環境への心配り」では、使用環境や時間を選ばず、誰でも簡単に設置・収納できる製品開発の事例としてノート型パソコンの「タフブック」を展示。主要部分にマグネシウム合金を採用したため衝撃に強いことがセールスポイントだ。また、継ぎ目のないシリコンラバーのシーリングで、すべてのボディ接合部を覆っているため、全方向からの水滴の侵入を防ぐ。振動を伴う移動環境や屋外での利用に威力を発揮する。
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【写真左:「移動と空間への心配り」車いすを使って間仕切り開閉壁「スクリーンウォール」の出入を体験。写真右:「安心・安全への心配り」ICタグは直径2cmほどの大きさで、医薬品や食料をはじめ、衣料、書籍、CDなどに使用できる。】
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【写真左:ICタグリーダー 対象物のタグにリーダーを近づけて声を録音する。約300件(10秒/1件)の登録が可能。写真右:「使用環境への心配り」90cmの高さから落としても、水滴を浴びても壊れにくいノート型パソコン「タフブック」。】
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国際福祉機器展でのUD製品の展示 |
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一方の国際福祉機器展では、同グループがユニバーサルデザインとヘルスケア製品によるソリューション展示を行った。UDでは玄関、リビング、クッキング、家事、バス・トイレをゾーニングし、各住居環境毎、UD配慮の製品が紹介した。
玄関では、インターホンやワイド照明スイッチ、センサー式照明などを展示。ワイド照明スイッチはスイッチ部分を取り外してリモコン操作できることが特徴だ。センサー式照明は、自動点灯で夜間の足元を照らしてくれる。夜中、トイレに立ったときに安全を確保できる。手がふさがっていても自動点灯するので、荷物をかかえて玄関を出入するときにもありがたい。
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【写真左:国際福祉機器展 松下グループの展示コーナー 、写真右:ワイド照明スイッチ スイッチ部分を取り外してリモコン操作できる。】
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リビングでは、ユニバーサルデザインラボでも展示されているスクリーンウォール、大きなボタンで使いやすい大型薄型テレビ、音声案内や大きな液晶画面を備えたパーソナルファックス、首にかけて両手を自由に使えるネックライト等が展示された。特に、使い方が煩雑になりがちなファクシミリにあって、わかりやすくおしゃれなインターフェイスの「おたっくす」が目を引いた。
クッキングでは、システムキッチン、IHクッキングヒーター、IHジャー炊飯器、食器洗い乾燥機、冷蔵庫、生ゴミ処理機等が展示された。特にUDの視点で優れているのがIHクッキングヒーターだろう。IHとは「Induction Heating」の略で「電磁誘導加熱」の意味。プレートの下のコイルに電流を流して磁力線を発生させ、その働きにより鍋そのものを発熱させるしくみだ。鍋そのものが発熱するので熱効率が非常に良い。電気量を調節することで細かい温度調節も可能だ。
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【写真左:「パーソナルファックス「おたっくす」わかりやすくおしゃれなインターフェイス。写真右:IHクッキングヒーター 火を使わないので安全性。「光るリング」が加熱を知らせる。】
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IHクッキングヒーターの特長は安全性だ。火を使わないので、立ち消えや不完全燃焼、火災、火傷の心配がない。タイマーやサーモスタットなどの機能で、スイッチの切り忘れや温度の上がりすぎを防ぐことも可能だ。一酸化炭素を発生せず、ススや煙も少ない。
ただ、火が見えない分、ユーザーにとっては作動しているのかどうかわかりづらいという難点があった。同社は加熱を赤色のリング状の内臓ランプで知らせる「光るリング」を採用してこれを解消している。さらに、よく使う「切・入」や「強・弱」の火加減スイッチをプレートトップに設置。調理しながらの火力調整を可能にした。スイッチパネルは見やすく、指で軽くタッチするだけで操作できる。
家事やバス、トイレのコーナーでは、「ななめドラム洗濯乾燥機」をはじめ、「座シャワー」、システムバス、温水洗浄暖房便座、洗面ドレッシング、室内物干しユニット、サイクロン式掃除機、コードレススチームアイロン等、身近ゆえに興味深い製品が並んだ。
「座シャワー」は1997年に第1回Gマークユニバーサルデザイン賞を受賞し注目を集めた製品だ。高齢者や車椅子の利用者、妊婦といった浴槽を使うことが困難なユーザー層の支持を集めている。もちろん開発の視点は家族全員であり、UDを志向していることは言うまでも無い。「座シャワー」の特長は楽に使えること、浴槽と同じくらい温まること、使用湯量は浴槽の約四分の一と経済的なこと。約6分で浴槽入浴なみの温熱効果を発揮するという。湯温や湯量、ハンドシャワーへの切り替えは手元のリモコンで調節できる。電子制御で一定の湯温を保ち、湯温ムラを起こさない。
室内物干しユニット「ホシ姫サマ」もなかなかの優れものだ。天井に取り付けたユニット竿をリモコンで昇降する。手を上げて洗濯物を干すのは重労働だ。これを使えば適度な高さで作業できるので、疲労は少ない。
企業によるUDの常設展示は、今年4月にお台場でオープンしたトヨタユニバーサルデザインショールームに続いて2件目。自動車と家電・住宅設備のリーディングカンパニーがUDの発信をすることで、ものづくりへのUD化はますます加速するに違いない。
【写真:「座シャワー」第1回Gマークユニバーサルデザイン賞を受賞。入浴の概念を変革して進化している。】
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