21世紀の社会システムをデザインする「ユニバーサルデザイン・コンソーシウム」  
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ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#37 グッドデザイン・プレゼンテーションに見るUD
 
− あしながおじさんとインディ・ジョーンズ −
 
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 
特別賞と時代背景
ユニバーサルデザイン賞の審査基準と7原則
ユニバーサルデザインとグッドデザインの共通項
グッドデザインを取り込むための要素
デザインの擬人化
ユニバーサルデザインの事例
グッドデザインとの融合事例
特別賞と時代背景
 
 今年で48回を数える「グッドデザインプレゼンテーション2004」が8月26日〜28日に東京ビッグサイトで開催された。2004年度グッドデザイン賞(Gマーク)にノミネートされ、1次審査を経過した約2,400点を「商品デザイン」 「建築・環境デザイン」 「コミュニケーションデザイン」 「新領域デザイン」の4部門で展示する国内最大のイベントである。昨年の入場者数16,585に比べ25%アップとなる20,828名を集め、産業デザインの堅調な復活ぶりをアピールした。

 グッドデザイン賞には特別賞として「グッドデザイン大賞」をはじめ、「グッドデザイン金賞」 「ユニバーサルデザイン賞」 「インタラクションデザイン賞」 「エコロジーデザイン賞」 「ロングデザイン賞」などが設けられている。審査の基本は産業に貢献するデザインであること。だが、最近は従来型に当てはまらなくなっている。というのも、ライフデザインやシステムデザイン、ユニバーサルデザインといったぐあいに、形やスタイルにはとらわれないものが増えているためだ。デザインは時代性を反映する。電気釜やオーディオ製品が花形だった時代から、デザインを介した自己実現や社会参画などへとユーザーニーズは移り変わっている。特別賞にエコロジーやユニバーサルデザインといった社会デザインが反映されているのもその現われであろう。
 
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ユニバーサルデザイン賞の審査基準と7原則
 
 「ユニバーサルデザイン賞」の審査基準は「福祉的な視点に配慮し、広範なユーザーによる使用を可能にしたと認められたもの」と記述されている。注目したいのは、後半部分の多様なユーザーへの配慮だ。UDの本質に触れるからである。米国で定められたUDの7原則はこれを核に組み立てられており、概要は次のとおりである。
 
  1. 誰にとっても公平
  2. どのような使い方に対しても柔軟
  3. 使い方がわかりやすい
  4. 必要な情報がすぐにわかる
  5. 操作ミスや危険を最小限に抑える
  6. 楽に利用できる
  7. 接近や利用のために十分な広さを持つ
 
 現在、原則は日米でさまざまな研究者や実践者によって見直されている。新たな視点として取り入れられているのが、審美性やコストパフォーマンス、流通での入手のしやすさ、環境への配慮などである。例えばエコロジー。UDは人間中心ではあるものの、人と環境を切り離すことはできない。有害な化学物質や環境汚染が充満しては快適な生活は成り立たないためだ。
 
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ユニバーサルデザインとグッドデザインの共通項
 
 UDがこのように拡大発展した結果、グッドデザインとの間に重複が見られるようになった。グッドデザインの評価項目と照らし合わせてみよう。赤字の部分がそれである。
 
  1. 良いデザインか
  • 美しい
  • 使用環境への配慮が行き届いている
  • 誠実
  • 生活者のニーズに応えている
  • 独創的
  • 機能、性能がよい
  • 価値に見合う価格
  • 使いやすい、親切
  • 魅力的
  • 安全への配慮がなされている
  1. 優れたデザインか
  • デザイン
  • デザインコンセプトが優れている
  • デザインプロセス、マネジメントが優れている
  • 斬新な造詣表現がなされている
  • デザインの総合的な完成度に優れている
  • 生活
  • ユーザーのかかえている問題を高い次元で解決している
  • ユニバーサルデザインを実践している
  • 新しい作法、マナーを提案している
  • 多機能、高性能をわかりやすく伝えている
  • 使いはじめてからの維持、改良、発展に配慮している
  • 産業
  • 新技術や新素材をたくみに利用している
  • システム化による解決を提案している
  • 高い技術を活用している
  • 新しい売り方、提案のしかたを実践している
  • 地域の産業の発展を導いている
  1. 未来を拓くデザインか
  • デザイン
  • 時代をリードする表現が発見できる
  • 次世代のグローバルスタンダードを誘発している
  • 日本的アイデンティティの形成を導いている
  • 生活
  • 生活者の創造性を誘発している
  • 次世代のライフスタイルを創造している
  • 産業
  • 新しい技術を誘発している
  • 技術の人間化を導いている
  • 新産業、新ビジネスの創出に貢献している
  • 社会
  • 社会的、文化的な価値を誘発している
  • 社会基盤の拡充に貢献している
 グッドデザインとUDは、大部分でその価値を共有していることが見て取れる。だとすると、グッドデザインにとってUDとは「福祉的な視点への配慮」が残されるのだが、この「福祉」という言葉はUDを的確に表現しているとは言い難い。なぜなら、UDではすべての人々が対象なのであり、福祉を強調することはそぐわないためだ。やはりUDは「人間の多様性への配慮」を核としてグッドデザインに融合しているとすべきであろう。
 
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グッドデザインを取り込むための要素
 
 逆に、白字の項目がUDの中ではっきりと位置づけられてこなかった要素だ。特に、「未来を拓く」カテゴリーが希薄である。ユニバーサルデザインのあるべき姿が、「人間の多様性に配慮したグッドデザイン」とすると、UDが取り込むべき要素は「独創的」 「斬新」 「未来を拓く」になるのではないか。ここでイベントのオープニングセッションで興味深いコメントが展開されたので紹介したい。

 参加者は、喜多俊之氏(審査委員長)、森山明子氏(審査副委員長)、益田文和氏(プロダクトデザイナー)、サイトウマコト氏(グラフィックデザイナー)、そして黒崎輝男氏(デザインプロデューサー)の5名。森山氏コーディネートのもと、審査の感想やデザインへの動向などについて意見を述べた。その中で、建築環境を評価したサイトウ氏が「今こうして暮らしたいという施主側のライトな感覚に対し、建築家やデザイナーが楽しく応えている」と、時代の感性を読み取り、自分の作品について、「ユーザー側に立って発想している。その際、自分で枠を作ると創造できなくなる。チャーミングなはずしかたをしなければ魅力がない」と、サイトウ流創造法を披露。これに賛同して黒崎氏が「とらわれずにこだわっている。作り手である前に、使い手という意識をもっている」と発言。続いて益田氏が「ユーザーを見てデザインしなければだめ。今回は海外からの応募が多いが、ユーザーが見えないので審査しにくかった」とユーザー本位の姿勢を強調した。

 ユーザー本位は三者の共通した姿勢である。グッドデザインとUDにも共通している。UDにとって新鮮なのは、「自分で枠を作らない」 「チャーミングにはずす」 「とらわれずにこだわる」といったコメントだ。ここには、「独創的」で「斬新」で「未来を拓く」デザインのヒントがある。
 
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デザインの擬人化
 
 ここでサイトウマコト氏のコメントを引用したい。「選考に際し、デザインは人だと思って接した。この人だったら家にいてもらってもよいか、よくないか考えた。考え方はいいけど置きたくないものもあった。」いわゆるデザインの擬人化だ。UDを人に例えると、「親切な人」が当てはまる。多くの人が思い浮かべるのが「あしながおじさん」であろう。一方、UDに欠けているのが「冒険家」のイメージだ。だとすると、二つを融合した「親切な冒険家」がグッドデザインとしてのUD像となる。あの「インディ・ジョーンズ」あたりが妥当だろう。
 
あしながおじさん   インディー・ジョーンズ
 
【写真左:あしながおじさん、写真右:インディー・ジョーンズ】
 
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ユニバーサルデザインの事例
 
 そこでサイトウ氏に倣い、擬人化の視点で今回のデザインを解釈しようと試みた。まずは「あしながおじさん」に例えられるユニバーサルデザインである。
 
写真:券売機
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  1. 券売機 <トヨコムエンジニアリング>
     
     迷いようがないほどわかりやすくデザインされた自販機。スポーツを表現しやすいピクトグラムの特長を上手に取り入れている。
 
写真:PPC用紙パッケージ
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  1. PPC用紙パッケージ <富士ゼロックスオフィスサプライ>
     
     「開封しやすい」 「後始末が楽」 「省資源」がキャッチプレーズ。梱包内容によって、3箇所開封の「ウイングタイプ」と、2箇所開封の「オープントップタイプ」がある。コピー用紙などの流通と保存段階で大切な役割を果たす縁の下の力持ち。
 
写真:ラフターロック
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  1. ラフターロック <ポラス暮らし科学研究所>
     
     迷いようがないほどわかりやすくデザインされた自販機。スポーツを表現しやすいピクトグラムの特長を上手に取り入れている。
 
写真:手すり一体型カウンター(Inter Court)
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  1. 手すり一体型カウンター(Inter Court) <昌和化成>
     
     洗面カウンター前部に穴を開け、手すりとして使えるように特殊加工を施している。シンプルな外観と鮮やかなカラーバリエーションで福祉的な印象を与えない。
 
写真:起立楽々2sソファ
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  1. 起立楽々2sソファ <起立木工>
     
     アップリスト機能で体をゆっくり押し上げてくれる。体重に合わせて5段階(43キログラム〜100キログラム)の調節が可能。
 
写真:ドコモハーティプラザ
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  1. ドコモハーティプラザ <NTTドコモ>
     
     店舗設計のハードと応対サービスのソフトに障害者を含む多様な利用者の意見をとりいれた。誘導ラインや音声案内、カウンター仕様、サイン表示などでの工夫にくわえ、サービス介助士2級資格保持者のスタッフによる最寄駅からの送迎サポート、手話スタッフの常駐など、多様なサービスを提供している。
 
写真:トヨタユニバーサルデザインショーケース
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  1. トヨタユニバーサルデザインショーケース <トヨタ自動車>
     
     UD仕様の自動車をはじめ、生活環境のUDグッズを9シーン400点にわたって展示。ユーザーが参加・体験・体感できるショウルームだ。さらに他企業とのコラボレーションで展示やイベントを行い、使い手側と開発側の対話によるモノづくりをめざしている。
 
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グッドデザインとの融合事例
 
 そして「インディ・ジョーンズ」にあてはまるデザインとしてノミネートしたのが次ぎの製品である。
 
写真:リサウンド・エア
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  1. リサウンド・エア <GNリサウンド社>
     
     補聴器とは思えないグラフィックに注目したい。つけていることを意識させない装着感と、原音に近い自然な音質を実現。何よりも目立たないデザインがUDとしての真骨頂だ。
 
写真:トーカ
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  1. トーカ <巧工芸>
     
     メープル素材を極限まで削り、内側からLEDの光を透過させている。従来、和紙が障子や照明において担っていた役割だ。クールなデジタル表示を紙一重の暖かさで覆ったところに、この製品の妙味がある。柔らかく変質した光がノスタルジックな感情に訴える。
 
写真:アディダスワン
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  1. アディダスワン <アディダス>
     
     ヒール部分に衝撃を感知するセンサーを内臓。ランナーの体重やスピード、路面コンディションなどの情報を収集・分析し、同じく内臓されたモーターがクッション性能をコントロールする。マニュアルでも中足部のボタンで調整が可能。ランナーは路面や競技に合わせてシューズを揃える必要がない。
 
写真:4ウェイ8スタイル
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  1. 4ウェイ8スタイル <コンビ子守帯>
     
     横向き、縦向き、縦・前向き、おんぶと、4通り8スタイルの使い方ができるので、子どもと親の双方にとって快適。子どもの成長に合わせて長期間使え、外出や家事などさまざまな生活シーンに対応している。ファッション性も高い。
 
写真:My Space, My World
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  1. My Space, My World <ハンセン>
     
     韓国の大手家具メーカー、ハンセンが送り出した子ども部屋。自分の城とも呼べる空間を、鮮やかなカラーコーディネートでユニット化している。二段高くなったデスクスペースが、子どもたちの占有欲と自尊心を満たし、学習意欲をそそることが期待される。
 
写真:エマージェンシーユニット
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  1. エマージェンシーユニット <YKKAP>
     
     自然災害や戦争などの被害者と救援者の支援、難民の救済などを目的に開発された仮設空間ユニット。軽量で設営や解体が迅速に行え、収納や運搬も楽。状況に応じて最小空間から大規模空間までフレキシブルに構成可能。丸みを帯びた美しいデザインと鮮やかなカラーも魅力的。本体はポリウレタンの二重膜構造で、チューブ内に空気を入れて自立させる。水密、気密性に優れ、耐風圧性能は風速25メートル/秒を実現。実際、2003年のイラク戦争時、イラク国境のヨルダン難民キャンプで医療施設用テントとして採用された。
 
写真:ecoms house
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  1. ecoms house <SUS>
     
     家具のような感覚でフレキシブルな空間構成ができる住宅。構造体から内装まで、基礎を除くすべてをアルミの押し出し材で構成している。構造体はX型格子材を組み合わせた1.2メートル×1.2メートルのパネル。住宅をはじめ、店舗、SOHO、アトリエといったニーズに自由に応える。リサイクルやリユースにも対応しており、解体後に別のエコムスハウスとして再利用されれば、廃棄物は出ない。
 
 一般的にグッドデザインはUDに比べ、ユーザーの多様性に縛られてこなかった。その分、独創性や斬新さを標榜しやすかったと言えよう。しかし、高齢化をはじめとする社会変化に対応し、さまざまなユーザーをその能力や使用環境で捉えねばならなくなっている。一方のUDは、福祉的なイメージから解き放たれ、より多くの市場をめざすために、グッドデザインを取り込まねばならなくなった。「独創的」 「斬新」をはじめとする要素である。今後、両者を区別することは意味をなさなくなるだろう。言葉としてどちらかが残るのかはどうでもよい。両方を包括する新たな言葉が生まれるかもしれない。要は、両者を融合するデザインの実践である。そうした観点から、今後のグッドデザインの動向に注目したい。
 
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