|
|
|
|
#34 地場産業のユニバーサルデザイン |
|
− 産業クラスターの取り組み − |
|
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員 |
|
ユニバーサルデザインの特徴は、市場を創り出すことにある。高齢化や自由時間の増大がもたらす使い勝手や安全性、個性、感性などへの需要がターゲットだ。経済産業省は、共用品を含む2001年のUDの市場規模を2兆2千億円と算出し、2025年には16兆円に成長すると見込む。実際、自動車や家電、設備機器、日用品などでUDによる製品開発で新たな市場を獲得する企業が目立ち始めた。プロモーションにも積極的で、UDの認知度を上げるのに少なからぬ役割を果たしている。
しかし、積極的にUDにより製品開発に取り組む企業は開発費や販促費、全国ネットの販売網に恵まれた大手企業に偏っているのが現状だ。地域経済の担い手とはいえ、地場産業が1社単独でこの市場に乗り込むことは難しい。そこで注目を浴びているのが産業クラスターだ。企業と研究機関、自治体が製品開発から販売促進までのノウハウや情報を共有するシステムである。クラスターとは本来はITやバイオといった先端技術における水平の連携関係を示すが、UDでもこの形態を取り入れる動きが出てきた。
|
|
産業クラスター同士の交流会
食のUDから衣料のUDまでを手がける「美作大学技術交流プラザ」
商品づくりのすべてのプロセスで協力する「ひょうご福祉新産業研究会」
地場産業の利点は生活者の顔が見えるものづくり
|
|
産業クラスター同士の交流会 |
|
そうした産業クラスター同士の交流会が昨年11月に岡山県津山市で行われた。美作大学技術交流プラザとひょうご福祉新産業研究会が中心となった 「ユニバーサルデザイン交流会 in 津山」 だ。グループ間交流により、さらなる企業間連携、人的ネットワークの拡大を図ることが目的だ。ユニバーサルデザインの商品開発や共通課題であるマーケティングについて講演やプレゼンテーション、情報交換をおこなった。
|
|
▲ページのトップへ戻る |
|
|
食のUDから衣料のUDまでを手がける「美作大学技術交流プラザ」 |
|
美作大学技術交流プラザは、岡山県や津山市が支援する津山新産業開発機構が事務局となって、1999年に発足した企業クラスターだ。地元企業28社が参加し、食品、生活科学、繊維縫製、福祉環境デザインの各分科会で活動している。食品グループは地産地消をテーマに掲げ、地産の作物を使った加工食品を開発中だ。商品には 「つやま夢みのり」 という共通マークをつけ、ブランド化を図る。
レアチーズ豆腐 (佐野食品)、山の芋 (ツグネイモ) の加工食品 (ブランケネーゼ)、アイスどら焼き (わかな) などで食のユニバーサルデザインをめざす。
繊維縫製グループは、介護衣料の開発がそもそものはじまり。現在はUD衣料の研究開発に移行し、2002年秋には、片手でも着装でき、繊維の構造によりほどけにくいマフラー 「ミフラー」 (東洋繊維興業)を発売し1万本以上を販売した。
|
|
|
|
【写真左:レアチーズケーキ 美味しくって栄養満点。会話がはずむUD食品。写真右:ミフラー 簡単便利でほどけない。ファッショナブルなミニマフラー。】
|
|
▲ページのトップへ戻る |
|
|
商品づくりのすべてのプロセスで協力する「ひょうご福祉新産業研究会」 |
|
一方のひょうご福祉新産業研究会は兵庫県の三木市、小野市を中心とする福祉関連企業が中心になって1997年に発足した。会費や会則を設けず、全員が代表という仕組みで会員の対等な関係を維持している。当初の研究員と三木金物メーカーのみの異業種グループから、病院や特別養護老人ホーム、生活協同組合、大学が参加する異業種交流グループに発展し、現在はマーケティング、企画開発、モニター試験評価、販売のプロセスが機能する自主的共同開発グループとして外部との広域的な連携を進めている。
メンバーは、中小企業17社と医療福祉機関や生協など22団体。発案からPR、販売すべてのプロセスを会員相互で協力し、売れる商品づくりをめざす。利益は最初に手がけた企業1社に還元し、開発リスクに対する責任と権利を明確化している。
市場での主な成功事例には、アルミ製の軽量踏み台や浴槽の装着型手すり (東光機材)、取り付け型用具グリップ (イクトモ)、柄の角度が変えられる包丁 (三木刃物製作所)、そろばん玉遊びや裾上げ機能付き靴べら (ダイイチ)、神戸ミニヤード (ノヴァ研究所)などある。
日本リハビリテーション工学会主催の福祉機器コンテストでは、設立以来5年連続で優秀賞、最優秀賞を受賞した実績を持つ。
|
|
|
|
【写真左:アルミ製軽量踏み台 高いところに手が届く。軽くて丈夫なお立ち台。 写真中央:用具グリップ 雪かき園芸野良仕事、重労働の必需品。写真右:角度可変包丁 腕に合わせて刃筋を立てる。軽い力で切れ味爽快。】
|
|
|
|
【写真左:裾上げ機能付き靴べら 楽な姿勢で靴を履く。達人動作の立役者。写真右:神戸ミニヤード いつでもどこでも真剣勝負。玉をはじけば心もはずむ。】
|
|
▲ページのトップへ戻る |
|
|
地場産業の利点は生活者の顔が見えるものづくり |
|
地場産業が成功するための要因は何か。東洋繊維興業の中島社長は、「エンドユーザーの声を新しい切り口で商品に生かすことだと」語る。美作大学技術交流プラザの繊維縫製グループで介護施設を訪問した際、暖かく、手軽に着用できて家庭で洗濯できるナプキンなどいろいろな要望が出された。中島社長は1人ひとりの声を丹念に聞きまわる。
介護の現場には、一般商品のヒントがたくさんあるからだ。そうした切実なニーズを解決しつつ、一般ユーザーにも受け入れられるファッション性を取り入れて開発したのが 「ミフラー」だ。長さ82cmのポリエステル素材の片端に通し穴があり、そこにもう一端を通すだけで簡単に首に巻きつけることができる。軽くて、動いても乱れることはない。
ひょうご福祉新産業研究会でコーディネーターを務める稲葉輝彦氏 (兵庫県立工業技術センター主任研究員) は、「何よりも売れる商品づくりが大切」 と強調する。地場産業は長年、大手企業の下請けとして縦型系列のビジネスモデルを担ってきた。だが、大手の生産拠点がアジアに移りつつある今、地場産業は横型のネットワークで自立をめざさねばならない。ポイントは、強い分野で連携して相乗効果を上げること。
現在、研究会は 「丹波ユニバーサル食器研究委員会」 や 「便利屋おの木工房」 を創出し、新たな異分野交流会へと発展している。地場産業の活性化に前向きな人々が会員、非会員を問わず例会や交流会に参加し、ウェブでは活発な情報交換をおこなっている。こうした人材や情報のボーダーレス化を進める一方、製品の質とアイデンティティを確立して着実に成功事例を増やしている。
地場産業には、技術の集積がある。中小企業には機動力があり、小回りもきく。完成品を手がけている場合には、主体的な事業運営ができる強みがある。さらに、生活者の顔がみえるものづくりがしやすい利点を持つ。卓越した技術やアイデア、すばやい反応をもってすれば、地場産業のUD市場での優位は揺らがない。
|
|
▲ページのトップへ戻る |
|
|
|
All Rights Reserved, Copyright (C) 1999-2005, universal design consortium, G×K Co.,Ltd |