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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#23 ショップモビリティ
 
− 情報コミュニケーションにおけるユニバーサルデザインの考え方とパッケージデザインでの実践 −
 
曽川 大/ユニバーサルデザイン・コンソーシアム研究員
 
 ショップモビリティとは主に電動スクーターを活用したまちづくりのプログラムです。経済活動とボランティア活動を融合させたこの画期的なプログラムの発祥の地はイギリス。現在、全英では250カ所以上でショップモビリティが行われています。日本では、タウンモビリティと名を変え、社会実験として、中心商店街の活性化を目的に実施されることがほとんどです。(詳細はユニバーサルデザイン誌04号)
 
電動スクーターを使えば、疲れずにショッピングを楽しむことができる。   誰にも違和感を感じさせずに街に溶け込んでいる電動スクーターの買い物風景(イギリス・ミルトンキーンズ)
 
【写真左:電動スクーターを使えば、疲れずにショッピングを楽しむことができる。写真右:誰にも違和感を感じさせずに街に溶け込んでいる電動スクーターの買い物風景(イギリス・ミルトンキーンズ)】
商売熱心な店ほど競ってユニバーサル化する
チャリティとビジネスのマッチング
多数派中間層をマーケットに
日本ではタウンモビリティと名を変え、社会実験的に行われている
定着しつつあるダイエーの試み
商売熱心な店ほど競ってユニバーサル化する
 
 イギリスの「ショップモビリティ」は、歩行者天国に端を発している。歩行者天国が普及し出したのは1970年代である。
 しかし、広域で車を締め出すと、それまで市の中心部まで車でやって来た障害のある人や高齢者まで締め出されてしまう。そこで車は外部に止めて、内部の移動を別の手段で肩代わりしようというのがショップモビリティのもともとの発想だ。
 ショップモビリティのユニークさは、行政が制度的に取り組みはじめたのではなく、障害のある市民や一般市民、商店が発起人になり、行政を巻き込みながら自発的に組織化されていった点だ。
 「ユニバーサルデザインの考え方は、米国よりも、ヨーロッパのほうが生活に根を張っている」というのは、国際プロダクティブ・エージング研究所の白石正明氏(代表取締役)である。ヨーロッパの建物や町並みは古くて使い勝手(アクセシビリティ)がよくないぶん、道具を使ってアクセシビリティをよくしようとしてきた歴史がある。
 ショップモビリティでは、車イスや電動スクーターでの移動をしやすくするために、古い町並みを保存しながら、小売店、商店会、自治体が最小のコストで効率的な工夫をしてきた。小規模店でも、自分の店の中と周囲に細かい配慮をする。商店が自然に店の周囲を清掃したり、打ち水をするのと同じ発想だ。自治体主導のいわゆる上からの計画では、かゆいところに手が届くような利用者サービスは期待できない。
 「ユニバーサルデザインは利用者本位に考えなければ実現しない。利用者にもっとも近い人、利用者を本当に理解している人がデザインしたほうが配慮が行き届く。タウンモビリティの町づくりはごく自然な形態でユニバーサルデザインを追求してきた」と白石氏は強調する。
 
筋ジストロフィーの女性が、ボランティアとともに週1回のショッピングを楽しむ-写真1   筋ジストロフィーの女性が、ボランティアとともに週1回のショッピングを楽しむ-写真2
 
【写真左:筋ジストロフィーの女性が、ボランティアとともに週1回のショッピングを楽しむ-写真1、写真右:筋ジストロフィーの女性が、ボランティアとともに週1回のショッピングを楽しむ-写真2】
 
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チャリティとビジネスのマッチング
 
 ショップモビリティの中心は、商店街の一角に設置された専用のオフィスである。
 そこでは、杖、歩行器から、電動車イス、電動スクーターなどを各種そろえ、必要な人にアドバイスをしながら貸し出す。貸し出すだけではなく、必要ならボランティアによる買い物介助もする。オフィスは誰が開設してもよい。開設者は、商店会、組合、自治体、ボランティア組織などさまざまだが、一度発足すると、独立した法人格をもち、会計監査もきちんと受けられるようにする。
 「オフィスの責任者は、障害のある人やお年寄りのニーズがわかる人」(白石氏)で、自治体の職員であったり、障害をもっている人、また、アクセスオフィサー(障害のある人、高齢者などを含む、すべての人が暮らしやすい町をつくるための建物、交通手段のチェック・指導を行う人で自治体から指定される)などさまざまである。
 ここでは、乗り物や機器を貸し出すほか、それらのメンテナンス、経理、保険業務、募金活動などを行う。保険業務というのは乗り物などによる事故を想定して保険がかけられるためだ。また、ボランティアのローテーションを組んだり、利用者同士の親睦会や旅行を仕掛けたりもする。単に買い物のアクセシビリティを高めるだけではなく、町の中に、高齢者や障害のある人を溶け込ませるのがオフィスの仕事だ。職員の人件費は行政が補助しているケースが多い。しかし、パートや退職者、ボランティアを活用して人件費はぎりぎりまで切りつめられる。
 市からの助成のほかは、商店の自主努力、市民や企業からの寄付寄贈でまかなわれる。電動スクーターなどの乗り物はもちろん、コンピュータをはじめとする設備、備品には、それぞれ寄贈した企業のネームプレートが付けられ、宣伝効果も期待されている。
 オフィスのスペースは、大型店などが無償貸与する。場合によっては事務所スペースの誘致合戦もあるほどで、タウンモビリティはビジネスとしても定着している。
 
ショップモビリティのオフィスは、サロンにもなっている。ここでパーティをしたり、さまざまな人の出会いの場でもある(イギリス・キングストン)-写真1   ショップモビリティのオフィスは、サロンにもなっている。ここでパーティをしたり、さまざまな人の出会いの場でもある(イギリス・キングストン)-写真2
 
【写真左:ショップモビリティのオフィスは、サロンにもなっている。ここでパーティをしたり、さまざまな人の出会いの場でもある(イギリス・キングストン)-写真1、写真右:ショップモビリティのオフィスは、サロンにもなっている。ここでパーティをしたり、さまざまな人の出会いの場でもある(イギリス・キングストン)-写真2】
 
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多数派中間層をマーケットに
 
買った荷物は配達してもらえる。手にはハンドルだけ(イギリス・メイドゥンヘッド) ショップモビリティのサービス利用者は、年会費を払って会員登録する。買い物に行きたい日時は、あらかじめ電話でオフィスに伝えて予約する。その際、その人に合った乗り物、介助のボランティアの要・不要などサービス内容を取り決める。
 利用者は、自分で車を運転して来たりバスなど公共交通機関で来るケースもあれば、介助者に連れて来てもらう場合もある。必要ならオフィスから最寄りの駅、バス停に迎えに来てもらったり、リフト付きバスで自宅に送迎してももらえる。
 ショップモビリティは、デイケア、デイサービスに似ている。対象は比較的元気な人だ。施設であずかるのではなく、町であずかり、リハビリや入浴の代わりにショッピングを楽しんでもらう。もっとも日本でなら入浴サービスも利用できるはずだ。
 つまり、このシステムは元気な高齢者と、重度の要介護高齢者の中間層のための生活支援である。この多数派中間層の生活に刺激を与えて、町に出てもらい、生活意欲を高めてもらう試みである。
 介助する家族にとってもありがたい。オフィスまでお年寄りを連れて来ると、あとはショッピングや映画を楽しめる。それは当然、商店街の売り上げにも貢献する。
 利用者を受け入れる商店などは、店内や周囲の通路をなるべく利用しやすいように改装する。公共空間の大規模な改装は、自治体や商店会が行う。改装が難しい小さな店では、利用者にこまめに声をかけて利用者のアクセシビリティを高める。店と客のコミュニケーションはいずれにしても重要だ。トイレなどの施設は商店街のどこかで用が足せるようにする。買った物は、それぞれの店から宅配してもらえる。
 地域経済的に考えれば、お年寄りなどへの年金がストックされずに、効率的に地域に分配されることになる。さらに、商店、保険、交通機関、宅配会社、各種メーカー、工事関係会社など多数の業種にわたってビジネスチャンスが広がる。福祉を地域経済に直結させた点でもユニークなプログラムである。
【写真:買った荷物は配達してもらえる。手にはハンドルだけ(イギリス・メイドゥンヘッド)】
 
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日本ではタウンモビリティと名を変え、社会実験的に行われている
 
 日本では、建設省、国土庁などの音頭取りで、全国数カ所で実験され、広島、金沢など本格的な稼働もそろそろはじまっている。どの地域でも電動スクーターの貸し出しは利用者に好評だ。
 タウンモビリティ活動は、実験後の継続が難しいといわれる。というのは、自治体、商店会、ボランティア、企業の足並みがそろわなければならないからだ。自治体がいくら先導しても、それを具体的に推進する商店会が消極的であれば実現しない。
 
簡単で安全な乗り物。乗り方はすぐに覚えられる(青森市商店街)   青森市商店街は魅力ある街づくりのために歩道を広げて自転車レーンをつくった。歩道と車道の境に黒い小さな筒型のライトを埋めて夜の演出をする   世界ではじめて立ったまま乗る、日野技研の電動歩行車「デンポコタッカー」。照れずに若年層でもショッピングや動物園を楽しめる
 
【写真左:簡単で安全な乗り物。乗り方はすぐに覚えられる(青森市商店街)、写真中央:青森市商店街は魅力ある街づくりのために歩道を広げて自転車レーンをつくった。歩道と車道の境に黒い小さな筒型のライトを埋めて夜の演出をする、写真右:世界ではじめて立ったまま乗る、日野技研の電動歩行車「デンポコタッカー」。照れずに若年層でもショッピングや動物園を楽しめる】
 
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定着しつつあるダイエーの試み
 
 総合スーパーのダイエーでは、電動スクーターの店内貸し出しの実験を行った。利用者から常設して欲しいという希望があり、現在、全国12店舗で実施している。実験の結果、電動スクーターを利用する顧客の店内滞留時間は平均より3倍長く、売り上げもそれに応じて高い。店にとってもメリットは大きい。
 電動スクーター導入は、同社の高田かおり氏(地球環境・社会貢献企画課)が企画した。
 「北欧でお年寄りが楽しそうに買い物をするのを見て、日本でも同じ光景をつくりたいと思っていた。ヨーロッパのタウンモビリティの視察旅行に参加して、ぜひ民間でやれるところからはじめたいと思った」のがスクーター導入を提案したきっかけだという。もともと高齢者や障害のある人に全店のバリアフリー度をモニターしてもらって店舗設計の準備をしていたことから、電動スクーター導入のための下地があった。
 各店では、正面案内係の脇にスクーターを置き、案内係が乗り方を説明する。スクーターは各店2台ずつ設置した。
 現在の問題点の1つは、電動スクーターの乗り物としてのコンセンサスの低さで、利用者は各店5〜6人常連客にとどまっている。「チャレンジ精神が旺盛な60歳前後の人」(高田氏)が多い。多くの高齢者はまだ静観中だ。電動スクーターは、今後の高齢者需要を見込んで各国とも生産台数が高まっている。タウンモビリティ以外にも、動物園、公園、美術館内などの需要や個人の購入が市場規模を押し上げると期待されている。現在、1台平均25万円ほどで、もう少し低価格化するとマーケットが拡大するものとみられる。
 
ダイエー新浦安店内。インフォーメーションで、使い方を教える(ダイエー新浦安店)   店内を自由に乗り回る(ダイエー新浦安店)   子どもには遊園地感覚(ダイエー新浦安店)
 
【写真左:ダイエー新浦安店内。インフォーメーションで、使い方を教える(ダイエー新浦安店)、写真中央:店内を自由に乗り回る(ダイエー新浦安店)、写真右:子どもには遊園地感覚(ダイエー新浦安店)】
 
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