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ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#21 UDの都市空間 -- カールスルーエ市/ドイツ (2)
 
カールスルーエ市在住の松田雅央さん(NPOドイツ環境情報センター)による、“成熟都市カールスルーエの今”レポート第2回目です。
 
松田雅央(まつだ まさひろ)
1966年生まれ。東京都立大学工業化学科大学院終了。在独7年。NPOドイツ環境情報センターを立ち上げ、日本へ生きた環境情報を発信している。
 
トランジットモールの現状と問題点
プロジェクトと市民参加
コンビプランと住民の意見
トランジットモールの現状と問題点
 
 KVVのトラム・Sバーンの大きな特徴としてもう一つ、メインストリートを中心とした路線の組み方がある。ほとんどすべての路線が中央広場(Marktplatz)を通っているので、区域内のA地点からB地点へ行くとき、多くても乗り換え1回で済むことになる。
 メインストリートとその周辺には小売店だけでなく、劇場・図書館・博物館・役所・学校などがコンパクトに集まっているから、経済圏100万人をひきつける強力な吸引力もある。停留所に降り立つと数m先に店の入り口があり、メインストリート沿いに買い物をして、別の停留所でトラムに乗って他の目的地へ。人口30万弱の市でありながら、これだけの規模・質・活気をもったトランジットモールがあることは特筆に値する。
 ただし、中央広場・メインストリートへの集中は、システムとしては諸刃の剣である。例えば、メインストリートで何か事故が起こると、非常に多くの路線に影響が出てしまう。また、混雑時の中央広場の様子は驚異的で、ひっきりなしに行き交うトラム・Sバーンの前後を横切る人の身のこなしは芸術的ですらある。トラムの1両編成は30〜40メートルで、車両によっては2両編成で走るから70m余り。これが停留所付近で2台も停車したら、実に140mに渡ってメインストリートの左と右が分断されることになる。停留所部分は通りの両側に停留所があるわけだから…、と、考えただけでもため息の出る状況である。
 
メインストリート 1900年頃   メインストリート 1960年頃
 
【写真左:メインストリート 1900年頃、写真右:メインストリート 1960年頃】
 
メインストリート 2002年。1900年頃から自転車利用者の多かったことがわかる。現在、自転車は公共交通・自家用車と並ぶ第3の交通機関と位置づけられているが、これをみると、なるほどと思える。メインストリートは80年代から本格的な車の乗り入れ規制が始まった。60年代と現在を比べると、特に緑の多さが目を引く   トラム・Sバーンの路線図(City部分)。左右に走る太い部分がメインストリートで、ピラミッドの絵のところが中央広場
 
【写真左:メインストリート 2002年。1900年頃から自転車利用者の多かったことがわかる。現在、自転車は公共交通・自家用車と並ぶ第3の交通機関と位置づけられているが、これをみると、なるほどと思える。メインストリートは80年代から本格的な車の乗り入れ規制が始まった。60年代と現在を比べると、特に緑の多さが目を引く、写真右:トラム・Sバーンの路線図(City部分)。左右に走る太い部分がメインストリートで、ピラミッドの絵のところが中央広場】
 
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プロジェクトと市民参加
 
  • “プロジェクトCity2015”と“コンビプラン”
  •  
     こうした中、市が作成したプランはメインストリートを中心に数キロの区間をトンネル化するもの。プロジェクトのポイントは、単に前述の問題を解決するだけでなく、近い将来に向けてさらに魅力あるCityを造ることにある。
     実は6年前、今回の前案が住民投票にかけられたのだが、その時は投票者の3分の2の反対で否決されている。そのときネックとなったのは以下の点。
  • 特に深夜など、地下停留所の治安悪化
  • 長期にわたる工事期間
  • 巨額の工事費用
  •  
     また、驚異的なトラムの運行密度に対応するため、トンネル完成後も地上の路線を利用する計画だった(運行路線の配分は地上3分の1、地下3分の2)。そのため市民からは「いったい、何のためのトンネル建設なのか?」という疑問が起きたが、それに対する説得力が不足していた。
     法律により、住民投票で否決された案件は4年間再審議が行えないことになっている。その期間が過ぎ、計画を練り直して再び住民に信を問うことになったわけだが、新しい計画ではメインストリートのトラムはすべて地下化。そして、メインストリートと並行して走るクリーク通りにもトラムを走らせることによって、路線の分散を図ることになった。このように「メインストリートのトラム地下化」と「並行するクリーク通りのトラム路線新設」を組み合わせているので、このプロジェクトは「コンビプラン」と呼ばれている。 (Die Ksombi-Lo‥sung : Kombi=コンビネーション、Lo‥sung=解決策)
     コンビプランがプロジェクトCity2015の骨格であるが、それに加えて以下の内容もプロジェクトに含まれる。
  • メインストリート地上部分数キロの歩行者モール(歩行者天国)整備
  • メインストリートの活性化
  • Cityの自転車網整備
  • Cityの広場・公共空間・緑地の整備
  • 太陽の扇プラン
  •  
    (城を中心にして伸びる通りに、黄色いタイルを敷き、太陽の輝きのイメージを表現する計画)

  • 市民参加
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     2002年9月22日には、コンビプランの是非を問う住民投票が行われ、賛成多数で可決された(この投票は“プロジェクトCity2015”に対するものではなく、“コンビプラン”に対するもの)。民意反映のプロセスとしては、この市民投票がクライマックスといえるが、ここに至るまでどのような過程を経てきたのか大まかにみてみたい。市では、市民フォーラム・市民ワークショップに先立ち、新聞・広報誌・インターネットなどで市民に参加の呼びかけを行った。これに呼応し、プロジェクトに直接参加したのが800人余り。市民への参加呼びかけとしては、無作為に抽出した市民に手紙を出す方法もある。その場合、統計的に見ると約1%余りの住民が集まるそうだが、今回は「参加したい人は誰でも参加できる」手法が用いられた。
     市民投票のシステムだが、「…の規模を超えるプロジェクトは市民投票が必要になる」といった規則は無い。市長の自主的な判断で実施されるので、制度的には市民投票無しに市議会で可決することも可能である。しかし、規模が大きく賛否が大きく分かれる場合、市民請求(有権者の10%以上)で市民投票の実施を求められることも予想される。
     市民投票の有効投票数は有権者の30%。今回の場合だと、賛成にしろ反対にしろ60,718人(有権者数202,391人)以上の票が集まらないと投票結果は無効になる。
 
City2015の冊子。顔の意味を直感的に理解していただけるだろうか?耳と目を結ぶ線がメインストリート。鼻の部分も含めて青い部分が地下化される。口はクリーク通り   City2015のPRポスター。このポスターが何千枚と街に張られた。写真に写っているこのあたりがトンネルの入り口になる
 
【写真左:City2015の冊子。顔の意味を直感的に理解していただけるだろうか?耳と目を結ぶ線がメインストリート。鼻の部分も含めて青い部分が地下化される。口はクリーク通り、写真右:City2015のPRポスター。このポスターが何千枚と街に張られた。写真に写っているこのあたりがトンネルの入り口になる】
 
プロジェクトCity2015の市民参加プロセス

  1. 委員会の開催


  2. 建築家によるワークショップ

  3. ”市街地の発展・2015年のカールスルーエ”
    5つの建築事務所による基本コンセプトの作成
    結果を市民フォーラムで発表

  4. 第一回市民フォーラム

  5. プロジェクトの説明
    ワークショップへの参加申し込み

  6. テーマ別の市民ワークショップ(2ヶ月間)

  7. 【テーマ】
    歩行者天国
    公共空間と広場
    Cityでの買い物
    Cityの仕事
    Cityの住宅
    都市交通
    停留所
    Cityの自動車と自転車
    メインストリートの改装

  8. 自治会代表による研究会


  9. 専門家による研究会(各種協会、団体、etc.)


  10. 専門家によるフォーラム

  11. 市民ワークショップの提言をチェック

  12. 住民による提言のチェック

  13. 無作為に選んだ70人の市民を招待
    2週間に渡り、市民ワークショップの提言と、
    専門家による研究会の提言を審議
    結果は、市議会の審議に反映

  14. 委員会の開催


  15. 市議会における原則案の決定


  16. 市民投票
 
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コンビプランと住民の意見
 
コンビプランの概念図 今回の取材の中で、ある自治会の役員(仮にA氏とする)にインタビューする機会があった。A氏が住んでいるのは、たまたま筆者のアパートの近く。A氏によれば、自治会では以前からクリーク通りの改善案を市に提案していた。この地域の住民にとっては、メインストリートのトラム地下化より、クリーク通りの状況改善が差し迫った課題だ。簡単に言うと、この地域の住民はトラムの新設路線をもっと延ばして欲しいと願っている。
 市の見解は「クリーク通りのトラム新設区間は、需要予測に基づいて決定したもの。また、地区住民が希望する区間の道路は幅が狭く、物理的に路線の新設はできない。それから、市の最重要課題はメインストリートの状況改善で、クリーク通り単独の整備はできない」。市全体の利益と、各地域住民の利益がすべて一致することはありえないし、すべての地域の希望を実現させることも不可能である。しかし、住民の目には「もう少し路線を延ばせば生活環境が大きく改善されるのに」と映る。これに対する市の説明はそっけなく、「今回のプロジェクトは、確かに皆さんにとっての直接のメリットはありません」。「プロジェクトの中で地域の利益が切り捨てられた」と感じる住民がいるのは仕方ない事である。
 ただし、だからといって市と自治会の関係が険悪であるというわけではない。他の部分では協力関係にあるし、自治会としては他のやり方で地区の状況改善を求めていくことになる。しかし、市民投票の結果について「民主主義だから仕方ないけどね…」と語ったA氏の言葉が悲しい。
 ところで、6年前の市民投票はプロジェクトの単独投票だったので、今回に比べて投票率が低かった。そういう場合、ネガティブな動機、つまり反対意見を持つ人の投票意欲が相対的に強くなる。それが投票者の3分の2の反対という形になったわけだ。それに対して、今回は総選挙との同時投票だったので、投票率が高く、より広い民意を反映したといえる。
 反対44%についてのA氏と建設局の担当者の見解が興味深い。
A氏の見解 :
 「メインストリートが、緑の多い歩行者モールになるイメージは確かに素晴らしい。だが、そのイメージに引っ張られ、他の問題点を深く考えないで賛成票を投じた人が多かった。」
建設局の担当者の見解 :
 「確かに反対44%は大きい。でも、プロジェクトの内容をよく考えずに(何か問題がありそうだからという理由だけで)反対票を投じた人も多い」。
 これはどちらが正しく、どちらが間違っているということではない。数字の読み方は、その人の立場によっておのずと違ってくるという話である。
【写真:コンビプランの概念図】
 
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