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#15 釣りとユニバーサルデザイン |
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設計者と生物学者の協働作業でアクセシブルな釣り環境をつくる
魚の生息地の保護に力を注ぐ
連邦政府の釣り振興支援プログラム
3300ヵ所以上の釣り場が改善された
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設計者と生物学者の協働作業でアクセシブルな釣り環境をつくる |
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米国では5000万人以上の人が何らかの障害をもつといわれている。全人口の5人に1人は物理的なハンディキャップがあるという勘定だ。そのような背景から、連邦政府は「リハビリテーション法504項」において、連邦政府の予算で造られる施設に対してアクセス権を保証し、誰もが利用できる環境の創出に努めている。スポーツやレクリエーション施設についても同様だ。米国水産自然生物省のロバート・ソーサ博士に、「釣りとユニバーサルデザイン」について寄稿していただいた。
ロバート・ソーサ博士(Robert J.Sousa,Pn.D)
魚類学者。米国連邦政府の水産自然生物庁に所属し、「連邦スポーツフィッシング振興プログラム」を、東部13州とコロンビア特別区で管轄。釣り振興に関する記事を内外に多数執筆している。
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【写真左:ロバート・ソーサ博士、写真右:海の家から浜辺へと続くスロープ(ロードアイランド州立コルト公園)】
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魚の生息地の保護に力を注ぐ |
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釣り場の良しあしは、魚の生息環境の良しあしに左右される。コンクリートに囲まれた人工的な環境でsは、魚は育たず、繁殖もしない。何かが欠けているのである。
生息地とは、生物が成長し、繁殖する物理的かつ環境的状況の総和である。大地と水からなり、植物や動物、昆虫、日光、日陰といった要素で構成される。これらの要素のダイナミックな調和が、生物にとって快適な自然環境をもたらすのだ。
米国では釣りが盛んで、4人に1人が釣り人であるといわれる。1996年に発表された内務省の統計によると、産業規模は370億ドル(約4・8兆円)、産業人口は約1200万人を数え、1080億ドル(約11兆円)の経済効果をもたらしている。米国で魚の生息地の保護に重大な関心が示されるのは、このような経済効果に他ならない。
【写真:固定式なので安定した状態で乗船できる、スロープ状の桟橋(ロードアイランド州立コルト公園)】
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連邦政府の釣り振興支援プログラム |
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連邦政府は、釣り産業の振興を目的として税金を課している。レクリエーション目的の釣り道具の購入やボートの燃料代に含まれる税金で、釣りやボートの振興を図るのが目的。釣り人やボートの愛好家が、税金を通じて、釣り場の保護や魚の繁殖、ボート乗り場のアクセシビリティに貢献するシステムだ。メーカーがあらかじめ税金を納めるので、消費者は負担している意識をもたない。消費者は知らず知らずに釣りやボートの振興に貢献していることになる。
1950年にこのプログラムが発足した当時、税金を課されたのは釣り竿とリールと人工ルアーのみだった。目的税として、メーカーが2ドルの製品を小売店に卸す際、20セントの税金を州政府に納める仕組みだ。この20セントは小売価格に含まれる。
現在は、ほとんどすべての釣り道具に10%、電動式のトローリングモーターや点滅式の魚探知機に3%の税金が課されている。また、モーターボートの燃料代の一部もプログラムに回されている。
このプログラムはできるだけ多くのアングラー(釣り人)やボートの愛好家を対象としており、釣り場や桟橋のアクセシビリティ、水遊びについての教育、沿岸の整備などを行うことを目的としている。
各州はプログラムが交付する資金を土地や水面の面積、アングラーのライセンス数により割り当てられる。各州は通常、割り当て資金に対して25%の自己資金を充てなければならないが、これはライセンス料で賄われる。
釣りライセンス料は州が徴収するが、その使途を釣り振興目的に限定しなければ、プログラムの資金を受けることはできない。各州は事前に釣り振興計画を連邦フィッシュ・アンド・ワイルドライフ・サービス(U.S.Fish and Wildlife Service)に届け出て承認を得る。連邦政府の生物学者が各州の計画を再検討し、それが適格かどうか、コストが妥当かどうかをアドバイスし、計画を修正する仕組み。
このプログラムによって創出される公共資源は連邦フィッシュ・アンド・ワイルドライフ・サービスによって保護されるが、州の計画が当初と異なる方向へ進む場合は、資金が打ち切られることもある。
【写真:景観に配慮し、5cm高の車止めで安全性を確保(ロードアイランド州立コルト公園)】
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3300ヵ所以上の釣り場が改善された |
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釣り振興プログラムが開始された最初の35年間で、2800にのぼるボート施設および釣り場へアクセスできるようになった。モーターボートの燃料税に関する法律が修正された1984年以来、その動きに拍車がかかる。この修正法によって、1700カ所のボート施設と3300カ所以上の釣り場が改善された。
修正法は、釣り振興基金の少なくとも15%をボート施設のアクセシビリティの改善に用いなければならないことを州に義務づけており、今後も新たな施設や既存施設の改修が進むと思われる。
釣り場については、州が沿岸を確保し、埠頭を建設し、小さなボートやカヌーに乗るための足場を用意し、水道やトイレ、小型ヨットの停泊場といった施設を配置し、漁業権や保存地域の地役権や優先使用権といった権利を購入して、アクセシブルな釣り場の創出に努めている。
こうしたことすべてが、市民が釣りやボート遊びで望むこと、すなわち魚や水辺へのアクセスを高めるための手段なのである。むずかしいのは、生息地への影響を最小限に抑えつつ開発することだ。施設の設計者と生物学者の協働が必要なのはこのためである。開発によって、自然を破壊してはならない。
我々は計画当初から、ユニバーサルデザインの思想、身体能力が異なるあらゆる人々に対応するデザインを導入すれば、後から改善することに比べて、コストはゼロか最小限に抑えることが可能であることを学んだ。設計者ができるだけ多くの人のアクセシビリティに配慮することはきわめて重要だ。ちなみにボートアクセス機構(SOBA=States Organization for Boating Access)は、優れたデザイン手法とそうでないものをまとめたデザインハンドブックを発行。全米で最小の面積であるロードアイランド州は1999年、ボート施設のユニバーサルデザインを州全域に普及させた功績により、水産自然生物庁のCivil Right Award(公民権賞)を受賞している。
【写真:砂浜を走ることのできる車イス】
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