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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#10 高齢者ケア施設のユニバーサルデザイン
 
〜特別養護老人ホームとかみ共生苑
『ユニバーサルデザイン』誌は創刊準備号(1997年)の発刊当時から、高齢者ケア施設の快適環境を考えてきました。これまでに掲載した作品は数十におよびますが、今回は02号に掲載した「特別養護老人ホーム とかみ共生苑」を紹介します。同ホームの基本コンセプトはグループホーム(※)の集合体で、居室の72%が個室です。理想の施設とは何か、から生まれた、集団管理方式を排し小介護単位を実現するクラスター方式。各クラスターは完結した生活空間で、1クラスターの入居者は10〜14人。居室の72%を個室にし、残りを2床、4床の多床室にした。ヘルパーは各入居者別に担当を決め、小人数の介護に当たる。
 
※グループホーム
痴呆性高齢者などが共同生活する小規模施設で、痴呆の慢性期においてケア効果が高いといわれている。
 
基本コンセプトはグループホームの集合体
手あついヘルパーの配置で個人の尊厳を守る
多目的に利用される地域交流スペース
1つのクラスターがグループホームの機能をもつ
基本コンセプトはグループホームの集合体
 
 山形市の中心から西へ15分。特別養護老人ホーム「とかみ共生苑(社会福祉法人やまがた市民福祉会)」は名称の由来である富神山の麓に建ち、周囲は農地に囲まれている。木質感に満ちた建物の外観は田園地帯の風景と調和し、コンクリートの上に木を張った屋根は、東北地方の農村地帯によく見られる「蔵」を想起させる。
 施設は特別養護老人ホーム(80床)、ショートステイ(20人)、デイサービス、在宅介護支援センター、ホームヘルパー・ステーションからなる。建物は中央部分と左右の翼部で構成され、中央部分は「中央通り」、左右の翼部はそれぞれ「北町」、「南町」と名付けられ、1つの町をイメージさせている。中央部分は事務・管理部門とデイサービスのスペースで、翼部は特養とショートステイの空間になっている。
 「北町」、「南町」はそれぞれ1丁目から4丁目まであり、1つの丁目には10〜14人の入居者が暮らすクラスター(房)方式が採用されている。クラスターには食堂・居間、台所、家庭用の浴場、トイレ、リネン庫、倉庫が設けられ、グループホームのように完結した生活空間を形成している。
 2つのクラスターに1ヶ所ずつのヘルパー室が設置され、ヘルパー(寮母)は担当する2つのクラスターの居住者のケアに当たる。小介護単位は、職員と入居者の疑似家族化が促進され、きめ細かなサービスを行える利点がある。 同施設の基本構想は、社会福祉法人やまがた市民福祉会およびその前身となる法人設立準備委員会の中に設けられた「施設建設運営プロジェクトチーム」による5年間で60回に及ぶ研究会を通して少しずつ積み上げられていった。当初の委員会メンバーは設計者、病院事務長、県福祉関係職員、特別養護老人ホームの寮母、養護老人ホームの指導員、看護婦など8名。度重なる全国の先進施設の見学や実習、2度にわたる北欧視察の成果を踏まえて、最終的に採用されたのがクラスター方式であった。
 委員会メンバーの1人、水戸部裕行氏(羽田設計事務所)は「北欧視察でグループホームを見て全員が感銘を受けた」という。北欧では集団管理方式ではなく小介護単位方式を採用し、施設であっても家庭のような雰囲気を醸し出している。100人を50人でケアするより、比率が同じでも、10人を5人でケアするほうが、職員と入居者のより濃密な関係が保たれサービスの質は上がる。委員全員のコンセンサスを得て、建設の基本コンセプトはグループホームの集合体と決められた。
 
写真:建物の周囲の遊歩道   写真:エントランス側外観   写真:郊外の田園地帯に建つ
 
【写真左:建物の周囲の遊歩道、写真中央:エントランス側外観、写真右:郊外の田園地帯に建つ】
 
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手あついヘルパーの配置で個人の尊厳を守る
 
 施設建設の出発点は、自身が入院経験をもつ1人の篤志家が山形市内にある至誠堂総合病院へ高齢者福祉のために3000万円を遺贈したことにはじまる。それを受けて、同病院は1992年、社員総会で特別養護老人ホームの建設を決議した。1994年に「法人設立準備委員会」が設立され、補助金の申請手続きや建築の実施設計など、具体的な開設準備に入った。
 建設予定地の西山形地区の住民は施設誘致を熱望し、用地取得はスムーズに行われた。地権者4人のうち1人は土地を市に寄付するほどの協力ぶりで、残りは市が買い上げ、それを市から無償貸与されている。総建設事業費は約19億円で、国、県、市の補助金合計が約18億円、残りが自己資金である。平行して、市民各層の人々が呼びかけ人となって、資金調達のために「建設促進の会」を設立し、事業理念を訴えて会員を募った。会費は1万円、その内訳は8,000円を寄付にしてもらい、2,000円を会の運営費に充てた。会員は約4,000人集まった。
 施設オープン後、「建設促進の会」は、「とかみ共生苑を支え高齢者福祉をよくする会」として維持され、地域住民参加型の施設になった。地元の西山形地区では住民の6割が会員登録し、同地区の婦人会ボランティアクラブのメンバーや地元小学校の教師、生徒が頻繁に施設を訪れ、地域交流や世代間交流も盛んだ。同会を中心に住民が高齢者福祉を積極的に考えるようになったという点でも、意味のある施設である。
 「管理運営委員会」は施設の主任以上の職員で構成されるが、苑長の沼澤忠氏は、「末端の職員や地域住民の声も、積極的に経営に生かしたい」と語る。運営方針は民主・公開が原則で、事務室のカウンターには運営の細目と事業予算を明記した「平成10年度事業計画書」を常備し、外来者でも閲覧できるようにしてある。
 ホームの主人公は入居者であるとの前提に基づき、「事業計画書」には事業理念として、尊厳の保持、人権・プライバシーの徹底保護がうたわれている。「国の職員配置基準では、十分なケアを提供できないし、1人ひとりの職員の負担も大きい」(沼澤氏)として、入居者4人に対し1人、つまり20人で足りるとしているところを、同施設では36人のヘルパー(寮母)を置いた。2つのクラスターに対して1人、合計4人の夜勤者を配し、8時間労働で何人必要かをシミュレートして算出されたのが、36という数字だった。勤務体制は早出、遅出、日勤、夜勤の変則2交代制で、119日の休日が確保されている。
 「国の基準は論外で1対1の介護が理想。ちなみにデンマークやスウェーデンの職員配置基準は1対1、日本では川崎市が2対1。措置費(17万5600円)だけで、多数の職員を雇用するには限界がある。ショートステイ、デイサービスも含め、赤字を出さず何とかやっているが、これ以上職員数を増やすのは無理」と苑長の沼澤氏は嘆息する。
 
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多目的に利用される地域交流スペース
 
 自然との共生を意識して中庭や光庭が多数設けられており、樹木の緑が鮮やかである。日中の採光は、庭から射し込む自然光と間接照明の柔らかい光。施設内の要所要所には、寄贈された油彩画が架かり、心を和ませる。工事期間中は、設計者の水戸部氏と施設職員が現場に張り付き、実際に車イスを使って、手すり、取っ手、スイッチの位置など、細部を詰めていった。
 玄関には段差がなく、車イスで出入りできる。玄関を入ると、オープンカウンター式の事務室がある。事務室には苑の周囲の状況をカメラでとらえて知らせ、数秒単位で画面が切り替わるテレビ・モニターを設置した。建物の内外に張り巡らされたセンサーで人が通り過ぎると、ブザーが鳴り、モニターの画面が静止する仕組み。
 吹き抜けのロビーには売店(地元の商店が出店)が設けられ、ジュース、お菓子類が売られ、そこで店員との語らいを楽しみにしている入居者も少なくない。入居者の飲酒、喫煙は自由だが、火災防止のために喫煙はヘルパー室に限られる。2階には研修室、相談室、風呂付きの家族宿泊室を設置。
 廊下には転倒時のショックを和らげるために、ゴム・クッションのついた2重床の上にフローリングが張られている。ロビー脇の廊下を進むと、ピアノが置かれた天井の高い地域交流広場があらわれる。中央にはモーターで昇降するステージが設けられ、音楽会や映画会が頻繁に催されている。また、入居者の自立心や役割意識を高めるための、習字、水彩画、ちぎり絵のサークル活動なども活発に行われている。
 広場脇の理美容院は週2回のオープン。地元の理容業者の協力で料金は2,500円と格安。
 中央通りには1日約20人が利用するデイサービススペースが設けられ、食堂・居間を中心に談話室、図書室、浴室(特殊浴室と普通浴室)がそれを囲んでいる。談話室は掘り炬燵式の和室にしている。食堂に面するタイル敷きの中庭では今夏、金魚すくいやパチンコ台をもち込んで、バーベキューパーティが行われた。
 
写真:要所要所に中庭や光庭を配置   写真:吹き抜けのロビーは和洋を調和させた面白い雰囲気
 
【写真左:要所要所に中庭や光庭を配置、写真右:吹き抜けのロビーは和洋を調和させた面白い雰囲気】
 
写真:映画会や音楽会が行われる交流ひろば(多目的室)。電気モーターで昇降するステージが設けられている   写真:週2回オープンする理美容室
 
【写真左:映画会や音楽会が行われる交流ひろば(多目的室)。電気モーターで昇降するステージが設けられている、写真右:週2回オープンする理美容室】
 
写真:デイサービスの談話室(和室)には掘り炬燵を設置   写真:居室入口には表札が設けられている
 
【写真左:デイサービスの談話室(和室)には掘り炬燵を設置、写真右:居室入口には表札が設けられている】
 
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1つのクラスターがグループホームの機能をもつ
 
 中央の公共空間と明確に区分された両翼部が入居者の生活空間である。8クラスターのうち6つが特養、2つがショートステイに利用されている。各クラスターの入口には、「南町1丁目」などの地名プレートが張られ、入居者はいわば町の住人だ。
 8畳ほどの居室は、食堂・居間、くつろぎコーナーに沿って配置されている。居室の72%は個室で、入居時に希望する居室タイプを聞き、ほぼ入居者の希望が満たされる。
 入居者の平均年齢は82歳、男女比は男3、女7の割合である。入居者のそれまでとの生活の連続性を保つために、私物のもち込みや電話の敷設は自由。家電製品、仏壇、箪笥など、それぞれの個性に応じた品物がもち込まれ、1人ひとりの生活史がうかがえる。
 庭に面した食堂兼居間には、ダイニングテーブルと大型テレビが置かれ、食事や娯楽のほか、入浴後のくつろぎにも使われる。食事をとる場所は食堂と居室のどちらでもよい。風呂は原則として週2回。各クラスターには家庭的な個室浴場が設けられ、自立度の高い人は夜間入浴もできる。服装はもちろん、1日の時間の使い方も本人の自由で、先述のように喫煙、飲酒、女性の場合には化粧にも入念に時間をかける。
 2つのクラスターを1つの介護単位にして、計4つのヘルパー室が設けられている。日中は1つの介護単位に4〜5名のヘルパーが介護に当たり、夜間は各ヘルパー室に1人の夜勤者を配置する体制。介護動線を短くして、ヘルパーの負担を小さくしている。
 入居者の約7割には痴呆の症状が見られるが、痴呆、非痴呆の区別なく居室が割り振られている。要介護度はまちまちで、配膳の手伝いができる人もいれば、ほとんどの時間をベッドで過ごす人もいる。週2回の訪問診療は至誠堂総合病院の医師が当たる。入居前の生活の場は、老人保健施設、病院がともに約4割、約2割が自宅だ。病院にいた人のほとんどはいわゆる社会的入院で、退院後の受け皿のなかった人である。
 「どんなに素晴らしい施設でも、本人が望んで来たわけではなく、施設を自分の居場所、終の棲家であると感じてもらうには時間がかかる」と沼澤苑長はいう。
 入居者と職員の心と心のつながりが大事である。両者が親密な関係を築けるクラスター方式は、施設をわが家と認識してもらえる有効な手法なのかもしれない。
 
写真:ショートステイのくつろぎコーナー   写真:食堂兼居間を囲むように配置されている居室。私物のもち込みは自由
 
【写真左:ショートステイのくつろぎコーナー、写真右:食堂兼居間を囲むように配置されている居室。私物のもち込みは自由】
 
写真:家電製品は私物   写真:クラスターごとに設けられた食堂兼居間
 
【写真左:家電製品は私物、写真右:クラスターごとに設けられた食堂兼居間】
 
写真:各クラスターに設けられた個室浴場は夜間入浴も可   画像:とかみ共生苑配置図・平面図
 
【写真左:各クラスターに設けられた個室浴場は夜間入浴も可、画像右:とかみ共生苑配置図・平面図(画像をクリックすると別ウィンドウで拡大画像が出ます。)】
 
<施設概要>
 
所在地 山形県山形市富神前6番地
敷地面積 1万5045.17
建築面積 5679.94
構造 RC構造鉄筋
コンクリート造り
設計 羽田設計事務所
施工 山形建設
入居定員 特別養護老人ホーム 80人
ショートステイ 20人
付帯事業 デイサービス事業運営
在宅介護支援センター運営事業
ホームヘルパー派遣事業
 
<建設事業費>
 
総建築事業費 19億3323万円
国庫補助金 5億7235万円
県補助金 4億694万円
山形市補助金 8億5717万円
共同募金会配分金 390万円
自己資金(寄付金) 9285万円
 
*以上は、季刊「ユニバーサルデザイン」02号(1998年12月発行)に掲載した記事を再編集したものです。
 
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