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ユニバーサルデザインとは?
 
2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#07 スポーツのユニバーサルデザイン
 
 スポーツはヒトの誕生と同時に生まれたといわれている。”スポーツ・イズ・ユニバーサルランゲージ”と表現されるように、スポーツは国境や人種のバリアを難なく超える。今では、年齢や障害のあるなしにかかわらず楽しめるニュー・スポーツも登場しはじめている。UDスポーツ研究会は、ユニバーサルデザインでスポーツを考え、スポーツを地域づくりに役立てるために設立された。
 
ノーマライゼーションとスポーツ・フォー・オ―ル
スポーツを楽しむ権利は基本的人権
ボランティアの出現でスポーツ・シーンが変わった
障害のあるなしによるくくりは意味がない
生涯スポーツの振興は医療・介護費用の軽減に
年齢に関係なく楽しめる「ニュー・スポーツ」
誰もがスタジアムの興奮を味わえる観戦環境の整備
ノーマライゼーションとスポーツ・フォー・オ―ル
 
 ヨーロッパではユニバーサルデザインとほぼ同じ概念で、デザイン・フォー・オール(design for all)という言葉が使われています。これはノーマライゼーション(※)思想を背景としており、すべての人がさまざまな領域で、容易に社会に参加できるようにするためのデザイン概念です。
 ノーマライゼーション思想を背景として、スポーツ・フォー・オール(sports for all)という言葉も生まれました。その基本的な考え方は、「年齢、性別、障害の有無、人種、社会的階層、居住環境にかかわらず、すべての個人がスポーツに参加できるように、環境やプログラムを整備すること」で、ユニバーサルデザインに相通じるものがあります。
 われわれが提唱するUDスポーツ(ユニバーサルデザイン・スポーツ)も、ヨーロッパで生まれたスポーツ・フォー・オールの概念を発展させたものです。
  1. 「生涯」と「障害」の2つの「しょうがいスポーツ」の融合
  2. 誰もがスポーツを楽しむことができる環境・プログラムの整備
  3. スポーツによる地域文化・コミュニティの振興
を柱としています。スポーツをユニバーサルデザインのまちづくりを進める貴重なソフトとしてとらえていることが特徴です。
 UDスポーツ研究会の具体的な活動内容に入る前に、スポーツが基本的な人権としてとらえられるまでの過程を、振り返ってみることにしましょう
 
※ノーマライゼーション(normalization)
〔常態化の意〕
障害者に、すべての人がもつ通常の生活を送る権利を可能な限り保障することを目標に社会福祉をすすめること。デンマークの知的障害者福祉の取り組みから生まれた理念で、バンク=ミケルセンが提唱。
 
写真:障害のあるなしにかかわらず参加できる「スポーツ・フォー・オール国際フェア2001」のイベント   写真:車イス体験コーナー
 
【写真左:障害のあるなしにかかわらず参加できる「スポーツ・フォー・オール国際フェア2001」のイベント、写真右:車イス体験コーナー】
 
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スポーツを楽しむ権利は基本的人権
 
 ノルウェー・スポーツ連盟が1967年に発表した「スポーツ15ヶ年計画」の中で、スポーツ・フォー・オールの理念が最初に提唱されました。その考え方は、ヨーロッパ中へ、世界中へと急速に広がっていきます。
 ヨーロッパ評議会は1975年、「いずれの個人もスポーツに参加する権利をもつ」とする「ヨーロッパ・スポーツ・フォー・オール憲章」をまとめ、ユネスコは1978年、「人は誰でも、その人格の発達に不可欠な、体育・スポーツに参加する基本的人権を有する」と明記した「体育・スポーツに関する国際憲章」を発表しています。
 そして1992年のヨーロッパ評議会による「新ヨーロッパ・スポーツ憲章」では、いかなる目的にも関係なく、「個人は誰しもスポーツに参加できる」としています。このように、スポーツを楽しむ権利は基本的人権として認められるようになってきているのです。
 日本の財団法人日本体育協会に当たる英国のスポーツイングランドでは、more people,more place,more programs(より多くの人、より多くの場所で、より多くのプログラム)をスローガンとしています。
 ユニバーサルデザインという言葉は使っていませんが、結果として、ユニバーサルデザインを実践しているといっていいでしょう。
 
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ボランティアの出現でスポーツ・シーンが変わった
 
 オランダ人の思想家ホイジンガは『ホモ・ルーデンス(遊ぶ人間)』の中で、ヒトと他生物の違いを”遊び”に求めています。彼のいう”遊び”にはスポーツも含まれており、彼によればヒトの誕生と同時にスポーツは生まれたことになります。
 今ではスポーツの楽しみ方は、「する」、「見る」、「支える」の3つに区分されますが、古代ではおそらく、「する」楽しみだけだったでしょう。コロッセオやアリーナに大観衆を集めるのはずっと後のことです。
 そして偽善でも、慈善でもなく、自己実現のためにボランティアをする人が現れるのはつい最近です。日本では阪神淡路大震災を契機にそのようなボランティア人口が急速に増加し、1998年の長野冬季オリンピック、それに続いて開催されたパラリンピックでは、スポーツ・ボランティアが大活躍。海外に目を向けても、シドニー・オリンピックやサッカーのフランスW杯は、ボランティアの人々に支えられました。
 スポーツ・ボランティアの仕事としては、専門性の高い手話通訳、外国語通訳、医療救護員などが、誰もが参加できる仕事としては給水・給食、案内・受付、記録・掲示係などがあげられます。このようなスポーツ・ボランティアの存在抜きには、UDスポーツは実現できないと、われわれは考えます。
 
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障害のあるなしによるくくりは意味がない
 
 リハビリテーションの一環としてイギリスではじまった障害のある人の国際スポーツ大会は、パラリンピックに発展します。第1回の夏季競技会は1960年にローマ(イタリア)で、冬季競技会は1976年にエーシェルドスピーク(スウェーデン)で開催されました。
 ローマ大会の参加国および人数は23ヶ国、約400人でしたが、2000年のシドニー(オーストラリア)では128ヶ国、約6,000人に増えています。この数字は単に障害のある人のスポーツ人口が増えただけでなく、交通アクセスが大幅に改善されてきていることをも物語っています。
 日本では長野パラリンピックがテレビ中継されたことにより、障害者スポーツの意識が大きく変わりました。翌年、それまでばらばらに活動していた知的障害者と身体障害者の団体が財団法人日本障害者スポーツ協会に統合され、同協会は財団法人日本体育協会に加盟。これにより障害のあるなしによる団体の壁が取り除かれたことになります。このような統合化の波は、UDスポーツへの1ステップとみることもできるでしょう。
 
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生涯スポーツの振興は医療・介護費用の軽減に
 
 UDスポーツのもう1つの側面は、年齢にかかわらずスポーツを楽しめること、すなわち生涯スポーツです。生涯スポーツの振興は、マクロで考えると、医療費や介護費用の軽減につながるといわれています。
 しかしわが国において、科学的にスポーツと医療・介護費用の関係について、全国的に実施された調査はありません。よくあげられるデータは、厚生省が1995年から1996年にかけて、宮城県大崎保健所管内に住む40歳から79歳までの国民健康保険加入者、約5万6000人を対象にした調査です。
 禁煙を守り、適正体重を維持し毎日60分以上歩いている人の医療費は44万3000円ともっとも少なく、その逆の場合は59万7000円かかっています。たったこれだけのデータから、全国レベルでどうかを推論するのはむずかしいですが、その割合はともかくとして、スポーツによって医療費や介護費用がある程度軽減することは予測できます。
 文部科学省の「スポーツ振興計画」では、成人の週1回以上のスポーツ実施率が2010年までに50%になることを、厚生労働省の「健康日本21」では、1回当たり30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上持続している人が2010年までに、男性39%以上、女性35%になることを政策目標にかかげています。
しかし実情はどうかというと、すでに成人の約半数が週1回、スポーツを楽しんでいるというデータもあります。高齢者のスポーツ人口は急速に増えてきているのです。
 異年齢集団によって行われるエージレスなニュー・スポーツの存在も、生涯スポーツの振興に一役かっています。その1つがペタンクです。
 
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年齢に関係なく楽しめる「ニュー・スポーツ」
 
 年齢に関係なく、誰もが楽しめるニュー・スポーツには、海外から輸入されたものと新しく開発されたものがあります。
ペタンクはフランス生まれ。木製の目標球に金属製のボールを投げ合って、相手より近づけることで得点を競う球技です。車イスを使う人も使わない人も、ハンディなく同等に戦えるのが特長。
 ペタンクの誕生のエピソードが興味深い。1900年代、南フランスで行われていましたが、チャンピオンが病気で車イス生活になってしまいました。そこで友人が、投球前の助走を禁止して、止まっている状態でボールを投げるというルールに変更。それが現在のペタンクになって世界へと普及していくわけです。高齢の人が多いサークル、比較的若い人が多いサークル、特に年齢的特徴がないサークルと、年齢集団はまちまちですが、それはそれでユニバーサルといえます。
 パークゴルフは北海道幕別町の教育委員会によって、新たに開発されたスポーツです。発祥の地だけあって、教育委員会にはパークゴルフ推進係が設けられており、日本でただ1人のパークゴルフ係長もいます。
 小さな公園ぐらいの面積があれば、1人から何人まででも楽しめますが、新たに建設されたパークゴルフ場もあります。温泉地などでは、パークゴルフ場のあるなしが、集客にも影響するようです。
 友人ができるなどの出会いの場になることで、精神面の健康も保たれます。
このようなスポーツをいっきょに体験できたのが、「スポーツ・フォー・オール国際フェア2001神宮外苑大会」です。あまりなじみはないが、参加しやすい33のスポーツを、障害のあるなしにかかわらず、体験することができました。
 
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誰もがスタジアムの興奮を味わえる観戦環境の整備
 
 スポーツ施設もずいぶん様変わりしています。
 2002年に開催されるサッカーW杯の会場の1つとして、昨年開園した静岡スタジアム・エコパを例にあげてみましょう。このスタジアムの車イス席は269席。トイレは車イス使用者など体の不自由な人も使いやすい作りになっています。
 総合案内表示は点字表示だけでなく音声案内も設置。スコアボードを兼ねた大型映像装置では、文字表示も行うので、耳が聞こえにくい人にとっても、情報を容易に入手できます。
 W杯の会場とならない施設も、最近できた施設は「ハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律)」や自治体が制定する「福祉のまちづくり条例」に準拠して計画されています。しかしそこまでの交通アクセスが万全でないために、自力で辿りつけない例も多々あります。
 静岡スタジアム・エコパは、交通手段と施設との関係性を大事にして計画が立てられています。スポーツを見る人のこと、やる人のこと、自然環境なども含めて、トータルに考えています。
 新設されたJR愛野駅のホームには、アクセシブルなエレベーターを設置。地上レベルで車イスを降りると、スタジアムが目に飛び込んできます。駅からスタジアムまでは、介助なしでは車イスで進めないほどの急勾配の坂が続くのが難点ですが、このような地形を克服する試みもなされています。
公園入り口の階段部分には階段、動く歩道、スロープカー(小型モノレール)の3タイプが併設されており、車イス使用者も、ベビーカーの人も、若者も、誰もが利用しやすいタイプを選べます。これは、ユニバーサルデザインにおけるシリーズ化(選択肢を増やす)ととらえることもできます。
 また公園内の主な道路からは段差をなくし、目の見えにくい人のために誘導ブロックも配置しています。水飲み場は車イスも使いやすい設計ですし、施設スタッフが対応するカウンターも車イス利用者に合わせた高さになっています。スポーツを生で見に行きたくても、体が不自由だから心配。そんなためらいを取り払ってくれる、誰にとっても快適なスポーツ観戦施設がどんどん増えています。
 
写真:静岡スタジアム「エコパ」の車イス席(小笠山総合運動公園)   写真:急勾配の道路に設けられたスロープカー(小笠山総合運動公園)
 
【写真左:静岡スタジアム「エコパ」の車イス席(小笠山総合運動公園)、写真右:急勾配の道路に設けられたスロープカー(小笠山総合運動公園)】
 
写真:車イスでアクセスできる水飲み台(小笠山総合運動公園)   写真:新設されたJR愛野駅のエレベーター(小笠山総合運動公園)
 
【写真左:車イスでアクセスできる水飲み台(小笠山総合運動公園)、写真右:新設されたJR愛野駅のエレベーター(小笠山総合運動公園)】
 
写真:車イス対応のインフォメーション(小笠山総合運動公園)   写真:すべての施設に車イスの観覧席が設けられている(宮城総合運動場)
 
【写真左:車イス対応のインフォメーション(小笠山総合運動公園)、写真右:すべての施設に車イスの観覧席が設けられている(宮城総合運動場)】
 
※以上は、季刊「ユニバーサルデザイン」07号(2001年2月発行)に掲載した記事を再編集したものです。
 
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