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2.ユニバーサルデザインの事例と動向
 
#05 都市計画のユニバーサルデザイン
 
写真:フライブルク市視察中の著者、右はフライブルク交通株式会社のトーマス・ルーフ氏〜路面電車を活用したフライブルクの公共交通システム
 フライブルク市はドイツ南部のライン川沿い、黒い森(シュヴァルツヴァルト)の西端に位置する人口約20万人の中規模都市である。スイスとフランスの国境に近く、スイスのバーゼルからは列車で40分ほど。同市は原子力発電所建設反対運動の発祥の地であるとともに、LRT(路面電車を軸とした交通システム)を利用したまちづくりを行うなど、国際環境宣言都市の最先端モデルとしても世界的に有名である。環境保全の観点から、市の中心部では自動車の乗り入れを制限しており、これにより中心市街地に往時のにぎわいが甦った。
 
兵庫県県土整備部交通政策担当
本田 豊
 
【写真:フライブルク市視察中の著者、右はフライブルク交通株式会社のトーマス・ルーフ氏】
 
月66マルク(約3,000円)で公共交通機関に乗り放題
郊外駅には大規模なパーク・アンド・ライド駐車場
超低床式の車両は騒音対策も万全
トランジットモールの導入で中心市街地に賑わいが戻った
月66マルク(約3,000円)で公共交通機関に乗り放題
 
 フライブルク市は排気ガス、駐車場不足、騒音対策としてLRTを導入しており、中心市街地の交通手段は自転車、歩行者、そしてLRTが中心である。
 市民はLRTの末端駅にあるパーク・アンド・ライド駐車場に自動車を置いて、LRTに乗り換えて中心市街地に入る。中心市街地に自動車を駐車できるのは住民だけとなっており、すべて許可制だ。LRTの料金は、自動車の諸経費より高いと利用されないので、非常に安く設定されている。
 1980年代初めまでは年間2000万人台の利用者で推移していたが、1984年の「環境保護定期券」の導入以降、年間3000〜4000万人に増加。さらに1991年の「地域環境定期券」の導入により、年間5000〜6000万人台に達している。1998年におけるLRT利用者は1日約23万人で、市の総人口を超えている。
 地域環境定期券が進化した現在の「レギオカルテ」と呼ばれる「地域定期券」は、ドイツ鉄道を含む鉄道路線、LRT路線、バス路線の約90路線、延長距離2,900キロの公共交通機関を利用できる定期券である。大人料金が月66マルク(約3,000円)と格安なのは、市などから運賃補助が出ているため。記名式と無記名式があるが、ほとんどの利用者は他人に貸し出し可能な無記名式を購入している。
 中心市街地の商店主や市内で働く人に対しては、2分の1の料金でLRTを利用できる割引制度も設けられている。ドイツでは通常、会社から交通費が支給されないので、彼らにとってうれしい制度である。またサッカーの開催時には、LRTによるパーク・アンド・ライドを促すため、入場料にLRTの料金が含まれている。
 
写真:路面電車が走る歴史的な街並み   写真:路面電車が乗り入れ、バスターミナルを備えた総合交通ターミナル「フライブルク中央駅」
 
【写真左:路面電車が走る歴史的な街並み、写真右:路面電車が乗り入れ、バスターミナルを備えた総合交通ターミナル「フライブルク中央駅」】
 
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郊外駅には大規模なパーク・アンド・ライド駐車場
 
写真:鉄道のホーム上にある路面電車の停留所とは、エレベーターやエスカレーターで結ばれている LRTの整備・運営は市が100%出資するフライブルク都市公社の傘下にあるVAG(フライブルク交通株式会社)が行う。VAGは、1997年度に2480万マルク(約12億円)の欠損を出しているが、同じ傘下のFEW(フライブルクエネルギー・水供給株式会社)の利益が高いため、フライブルク都市公社全体としては、200万マルク(約9400万円)の欠損に止まっており、その損失は市から補填されている。
 また、フライブルク市と周辺の郡を含むフライブルク都市圏(面積60キロ×70キロ都市圏人口60万人)では、地域全体の公共交通の利用を促進するため,交通運輸連合RVFを設立し、LRTを含めた公共交通の効率的な運営を行っている。RVFのメンバーは、VAGのほかドイツ鉄道や地域のバス会社など交通関連17企業である。
 LRTの運行頻度は、平日朝ラッシュ時の7時台は2分間隔、昼間は4〜6分間隔が基本だ。
 フライブルク市では交通結節点の整備にも注力している。ドイツ鉄道(DB)のフライブルク中央駅の真上にLRTの電停が設けられており、電停と駅のホームはエレベーターとエスカレーターで結ばれている。中央駅はバスターミナルや自転車駐輪場も併設されている複合的な交通ターミナルである。
 同市では基本的な放射路線をLRTが担い、これを補完する路線の終点からさらに郊外への路線はバスが担うというように、明確な役割分担が行われている。郊外におけるLRTとバスの乗換駅では、平面で同一ホーム構造となっており、階段等を利用した上下運動をすることなくバスとの乗り換えができる。これらと合わせて、郊外のLRT駅には大規模なパーク・アンド・ライド駐車場が整備されていて、自動車利用者の利便性も十分に図られている。
 1976年から1996年の20年間で、トリップ数は全体で1・4倍に伸びているにもかかわらず、自動車トリップ数は横ばいとなっており、輸送分担率は自動車が60%から43%に減少している一方、公共交通は22%から28%に、自転車利用は18%から29%に増加した。ちなみに、VAGの従業員も668人中307人が通勤に自転車を利用している。
【写真:鉄道のホーム上にある路面電車の停留所とは、エレベーターやエスカレーターで結ばれている】
 
写真:路面延長が図られた路面電車の郊外駅   写真:「P・R」のサインはパーク・アンド・ライド駐車場の意味
 
【写真左:路面延長が図られた路面電車の郊外駅、写真右:「P・R」のサインはパーク・アンド・ライド駐車場の意味】
 
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超低床式の車両は騒音対策も万全
 
 LRT車両は1993年に超低床バスと合わせて導入されたライトレール・ヴィークル(Light Rail Vehicle)と呼ばれる超低床車両が中心である。車両の長さが約33・5mで、最大240人乗り。折り返し運転ができるように、ドイツではめずらしく両側に扉が付いたタイプだ。
 1999年、新たにシーメンス社製の100%低床の車両(約42mの7連接)が導入され、これに伴い電停の長さを延長する工事が行われている。
 車両は行き先表示部分(2〜3mの幅がある)に工夫が施されており、系統番号と行き先をはっきりと表示。特に、4つの系統番号には系統独自の色(赤、緑、青、黄)を付け、はっきりと区別できるようにしているのが大きな特徴。
 市内では、狭い道にも歩道を残すだけの形でLRTの軌道が走っており、歩道から直接LRTに乗り降りできる。住宅地や公園周辺では、騒音や振動の緩和、地下水保護に効果がある芝生軌道が採用されており、景観的にも美しい。
騒音対策としては他に、メタルとメタルの間にゴムを挟んだ弾性車輪が用いられ、エンジンも静音設計されており、背後から近づくLRTは、目の前に来るまで気がつかないほど静かに走る。
 
写真:公園や住宅地の周辺では、環境対策として芝生軌道を採用   写真:1999年に導入された100%低床車両
 
【写真左:公園や住宅地の周辺では、環境対策として芝生軌道を採用、写真右:1999年に導入された100%低床車両】
 
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トランジットモールの導入で中心市街地に賑わいが戻った
 
写真:中心市街地では自転車が重要な交通手段。自動車の乗り入れは規制されている 中心市街地では、歩行者専用道路が広範囲に設定されている。一部のトランジットモールにはバスも走行しているが、基本的には車両の乗り入れは禁止で、LRTと自転車だけが走行を許される。まちはトランジットモール(※)の導入により、人口20万人の都市と思えないほどのにぎわいを見せている。
 自動車が乗り入れていた25年前、トランジットモールの導入に対して、当時商店主たちは、商売がうまくいかなくなるといって反対したが、導入後はにぎわいが戻ったために誰も反対しなくなった。ほとんどの商店主は市内に住んでいるが、中心市街地に住む割合は少なく、実際彼らもLRTに乗って、自分たちの店にやって来る。
中心市街地では自転車が重要な交通手段。自動車の乗り入れは規制されている
 気になる交通事故に関しては、LRTが速度を落として運行していること、市民がLRTに慣れていることから、現状ではほとんどない。
市内でLRT利用者へのヒアリング調査を行ったところ、「現在も中心市街地の渋滞には困っていること」、「パーク・アンド・ライド駐車場の料金が不要なうえ、速くて安価な公共交通機関であるLRTへの期待が大きいこと」が明らかになった。
 また、商店街従業員に対するヒアリング調査では、「人通りは金曜日と土曜日が多く、ほとんどがLRTまたは自転車で来ていること」、「トランジットモール区間の自動車乗り入れは許可制となっているが、荷物の搬入には特に不都合は生じていないこと」、「トランジットモールは顧客を呼び込むための装置として有効であること」がわかった。
 さらに、LRT利用者と商店街従業員への「LRTがなくなったらどうなるか?」という質問に対しては、交通渋滞や環境の悪化を懸念することはもちろん、「そのような状況は考えられない」、「まちが混乱する」、「生活できなくなってしまう」といった回答が多く、LRTがフライブルク市民にとってかけがえのない交通機関として浸透していることが確認できた。
 日本はまだ、本格的なパーク・アンド・ライドや小規模なトランジットモールを社会実験として実施している段階であり、LRTについても、ようやく路面電車を見直す機運が出てきたばかりである。
 フライブルク市の取り組みは、ユニバーサルデザインのまちづくりを進めるうえで、示唆に富む先進事例であるといえるだろう。
【写真:中心市街地では自転車が重要な交通手段。自動車の乗り入れは規制されている】
 
※トランジットモール
歩行者専用のモールまたはショッピングモールにLRTなどの公共交通を導入した都心商業空間。公共交通が水平に動くエレベータの役割を果たし、モール全体が1つの建物のように機能することから、都心活性化を図る有効な方法として欧米では数多くの成功事例がある。
 
グラフ:交通手段別トリップ数の推移
年間別棒グラフ 交通手段別トリップ数の推移(フライブルク市) 1976年では、もっとも多いのが自動車の231。ついで公共交通機関が85、その他が69となっています。 1989年では、もっとも多いのが自動車の236。ついで公共交通機関が125、その他が132となっています。 1992年では、もっとも多いのが自動車の232。ついで公共交通機関が130、その他が138となっています。 1996年では、もっとも多いのが自動車の232。ついで公共交通機関が155、その他が160となっています。
 
【グラフ:交通手段別トリップ数の推移】
 
※以上は、季刊「ユニバーサルデザイン」07号(2001年2月発行)に掲載した記事を再編集したものです。
 
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