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#03 交通のユニバーサルデザイン |
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日本の先進事例 〜誰もが、自由に、好きな場所へ
「移動の自由」は、すべての人に保障されなければならない。今、誰もが自由に好きな場所へ行ける「交通のユニバーサルデザイン」が、国際的な潮流となっており、国内においても、さまざまな実験やプロジェクトが行われている。
ユニバーサルデザインのコンセプトで企画運営されているタクシー、ユニバーサルユースが実現された鉄道駅舎や旅客船ターミナル、空港などの事例を集めてみた。
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タクシー/ユニバーサルデザイン・タクシー
鉄道駅舎/阪急伊丹駅
旅客船ターミナル/神戸港中突堤中央ターミナル
空港/仙台空港旅客ターミナル
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タクシー/ユニバーサルデザイン・タクシー |
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1999年12月、車体にUNI-NETの文字が鮮やかな、ユニバーサルデザインのコンセプトでつくられたタクシーが、横浜、静岡、神戸、長崎の4都市で走りはじめた。車体は日産RVの最上級車「エルグランド」をベースにして、リフトを付けるなどの改良を重ねたもの。
このタクシーは、従来からある福祉タクシー(行政からの委託で走る障害のある人や高齢者を対象とした専用タクシー)とは異なり、すべての人が普通のタクシーと同様に、同じ料金で利用することができる。運賃は、大型車なのに中型並みだ。
ユニバーサルタクシーは、全国各地のタクシー会社の経営者が個人出資で創業した株式会社ユニネットにより、企画運営されている。経営方針は出資者による合議制の経営委員会により決められる。
地方のタクシー事業者にとっては、全国で統一規格化されたユニバーサルタクシーは、ローカル企業の限界から脱皮して、全国ブランドがもてるなどのメリットがある。ユーザーの側にとっても、旅先などで馴染みのあるタクシーを、統一料金で利用できるのは安心だ。ドライバーからも、運転が楽で疲労が少ない、社会貢献による満足感や顧客との人間関係などで営業にやりがいが出てくると好評だ。
障害のある人の移動手段は、飛行機や新幹線の車両、空港や駅舎が改善されつつあるが、その先の交通手段がなく、旅行やビジネスが満足にできないのが現状である。点と点を結ぶシームレス(継ぎ目のない)な交通手段として、今後ユニバーサルタクシーの果たす役割は少なくないと思われる。
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【写真左:リフト付きなので、車イスのまま乗降できる、写真右:車体は日産の「エルグランド」をベースに改良を重ねたもの】
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鉄道駅舎/阪急伊丹駅 |
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阪急伊丹駅は、国内の駅舎の中で、もっともユニバーサルデザイン度の高い駅であるといわれている。
大震災で倒壊した同駅の再建工事は、阪急電鉄、伊丹市、市民団体の協働により、1997年にスタートした。駅舎と駅ビル部分は阪急電鉄が、駅前広場は伊丹市が主体となり、エレベーターやスロープなどのアメニティ施設については、交通エコロジー・モビリティ財団から交付された7億5000万円の助成金が充てられた。
通常、駅舎に限らず、公共建築物の新設には、公聴会を開いて市民団体の代表から意見を聞くのがつねだが、行政側のアリバイづくりという側面が強い。
その点、同駅の場合は、整備検討委員会に広範な市民が委員として加わり、活発な議論が交わされた。委員会の開催時には、傍聴者も多く、市民の積極的な参加が、結果として、同駅のユニバーサル度を高めたといえるだろう。
施設内外の動線についても、市民の意見が最大限に生かされた。駅前広場から駅ビルへは、屋根付きの歩道を設け、雨に濡れることなく、容易にアクセスできる計画がなされている。駅ビルのエレベーターは、最初はビルの中央に設けられる計画だったが、広場からの移動距離が短いほうがよいという市民の意見が取り入れられ、広場側の入り口近くに変更された。エレベーターはすべて車イス対応型だ。
駅ビルは商業施設と駅舎からなる。駅舎は3階にあり、視覚障害のある人に対応する音声誘導装置など、さまざまな配慮がなされている。車イスが通過できる自動改札は、積極的に社会参加しようとする障害をもつ人が、熱望してやまなかった設備である。
改札口を入ると、緩やかなスロープがプラットホームまで続いている。車イスの人でも、駅ビルに入ってから、いっさいの介助を受けることなく、自力で電車に乗り込める駅舎は、世界的に見てもめずらしい。
男女のトイレ設備はシンメトリーにデザインされており、男トイレにも乳幼児用のブースや、おしめを取り替えるベビーシートが設置されている。男女共同参画社会を、目に見えるかたちで表している画期的なデザインであるといえるだろう。同駅には、数多くの市民の声が生かされている。
現在工事中の駅前広場は、バスターミナルの機能をもっているので、これが完成すれば、市内から同駅へのアクセスは容易になる。ようやく完成したユニバーサルデザインの駅を最大限に生かすために、ノンステップバスやユニバーサル・タクシーの導入など、同駅を起点としたユニバーサルでシームレスな交通網の構築が望まれる。
【写真:駅舎のある3階まで吹き抜けになっており、開放感のある空間構成】
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【写真左:駅ビルは商業施設と駅舎から構成され、伊丹市の人口集積地である、写真右:ユニバーサルユースに対応する高さの異なる4基の自動券売機を設置】
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【写真左:公衆電話機は、車イス使用者はもちろん、単に疲れている人など、すべての人に配慮されている、写真右:同駅ではユーザーの意見を取り入れ、車イスが通れる幅の広い改札口の自動化に踏み切った】
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【写真左:プラットホームへと続くスロープには、車イスや歩行器の人を考慮して、高さの異なる2つの手すりを設置、写真右:券売機の横には、授乳室などからなるサービスコーナーが設けられている】
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【写真左・右:乳幼児用のトイレブースやベビーシートが、男トイレにも設置されている】
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旅客船ターミナル/神戸港中突堤中央ターミナル |
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神戸港中突堤中央ターミナル(愛称「かもめりあ」)は、すべての人が利用しやすいターミナルづくりをめざして、神戸市が整備した施設である。阪急伊丹駅と同じく、交通エコロジー・モビリティ財団の助成を受けて、1998年に竣工した。
事業を推進するに当たっては、委員会方式と事後評価の2つの新しい方式が取り入れられた。検討過程では、設計前段階、設計前の素案段階、設計最終段階、竣工前段階、供用後段階で、多数の市民が参加し、その意見が設計に反映され、建設が進められた。
施設整備はユニバーサルデザインの視点に基づいて行われ、建物の構成は単純でわかりやすく、建物内及び周囲の段差が解消され、できるだけ多くの人が利用できる設備が工夫されている。
事後評価は、検討委員会で求めた整備内容が実現しているのかどうかの実態調査と、委員と当事者(利用者、施設管理者)へのアンケートとヒアリングをもとに行われ、報告書にまとめられた。報告書では、同施設が今後、さらなる改善に取り組まなければならない事項を明記。それとともに、他の新設施設や既存施設の大改造計画に役立てることができる留意点をまとめている。
【写真:中突堤中央ターミナルは、外国航路の客船が発着する観光名所「メリケン広場」に位置している】
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報告書から
- 同施設の改善事項
- エレベーター内の音声ボリュームアップ
- 階段手すりへの点字テープ貼り付け方向の修正
- 音声誘導システムの音量調節
- 情報板の時刻表示の色の変更(目立たせる)
- マルチビジョンへの発着情報の常時表示またはこまめな表示
- 休憩室、授乳室のサイン表示とPR
- 車イスをわかりやすい位置(入り口付近)に配置
- 1階障害者用トイレの壁側のトイレットペーパーの設置
- 一般トイレ便房入り口への小さめの点字ブロックの設置
- 身障者への駐車場料金割引サービスの検討
- 建物名称のわかりやすい表示、岸壁側入り口のわかりやすい表示
- コインロッカー、カギなどへの点字テープの貼り付け、番号の貼り付け
- 他施設整備の際の留意点
- 2方向エレベーター内の入り口方向表示を大きな文字にするなど、初めて乗った人が容易に反対側入り口がわかるように表示方法を工夫する
- 点字表示は、弱視者も考慮し、点字表示の存在がすぐにわかるような色使い(突起部分の色と周囲の色とのコントラストをつける等)とする
- 点字表示付案内板は、インターホンで人を呼べることを重視する
- 音声誘導システムは、感知性能の向上、互換性の確保、シールの配布とPR方法などを十分検討する
- 情報板は、待合室のどこからでも発着情報が見えるとともに、光の反射等に留意して配置する
- 総合案内所での人の対応が非常に重要である。交通ボランティアの育成と活用等により、道案内なども行える専 属の人材の配置が望まれる
- サインは遠くからでも視認できるよう大きめのピクトグラム、文字表示とすることが望まれる
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【写真左:桟橋側のエントランスへは、緩やかなスロープを使って車イスで出入りできる、写真右:すべてのサインにピクトグラムが使用されており、日本語と英語を併記】
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【写真左:車イスのひざを入れやすく、一般の人にも見やすい案内板。インターホンの設置が、視覚に障害をもつ人から高い評価を得た、写真右:車イスの向きを変えずにそのまま乗り降りできる2方向型エレベーター】
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【写真左:1階の待合室は、吹き抜けの広々とした心地よい空間になっている、写真右:インフォメーション・カウンターの高さは、車イスの人が利用しやすいように70cmに設定されている】
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【写真左:右まひ、左まひに対応し、両側にトイレットペーパーを配置した多目的トイレ、写真右:傾斜がきつく自力で上がれない場合には、船会社の係員が対応する】
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空港/仙台空港旅客ターミナル |
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仙台空港旅客新ターミナルは、東北の空の玄関として、地域の大きな期待を担って計画された。到着系施設は1階に、出発系施設は2階に集約され、動線分離を実現した施設構成になっている。建物の内部は、ゆとりとやすらぎを感じさせる広々としたスペーシングで、開放感にあふれている。
出発ロビーと出発ラウンジは、トップライトとガラスカーテンウオールで覆われており、晴天時の昼間はほとんど人工照明を必要としない。これらのエリアの照度は、昼光センサーによってコントロールされており、自然光を最大限に活用することで省資源が図られている。1階中央プラザは、待ち合わせ場所として、噴水と池が設けられている。
動線分離と内部空間の明快さは、旅客にとってわかりやすい施設構成とするための工夫である。すべての人が快適に利用できる空港とするために、サインやカウンター、トイレなどの施設にきめ細かい配慮がなされている。
サインはビル全体にわたって、一定の高さに表示ゾーンが設定され、表示色は検討を重ねながら、見やすい色に決められた。また広告などの二次的な視覚情報は、全体のサイン計画に影響しない配慮がなされ、すっきりとした感じにまとめられている。
トイレは障害をもつ人への配慮にとどまらず、小さな子どもを連れた人や大きな荷物をもった人など、ユニバーサルユースの実現が図られている。
仙台市中心部から同空港へのアクセスは、公共交通機関が整備されていないために、リムジンバスや自動車の利用が中心である。1階の到着口の近くには、車イスの利用者が駐車できる車寄せが設備され、ここで降りれば2階の出発ロビーへは、車イス対応のエレベーターでアクセスできる。また駐車場にも、車イス専用の駐車スペースが確保されている。
連けつする公共交通機関の整備については、現在検討が進められている。
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【写真左:ガラスカーテンウオールから射し込む光で、晴天時の昼間はほとんど人工照明を必要としない2階出発ラウンジ、写真右:広告物を規制し、不必要なサインを除去した、わかりやすさを重視したサイン計画】
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【写真左:ターミナルビルへは、車イス対応のエレベーターを使ってアクセスできる、写真右:仙台空港は、年間利用客が300万人を超え、国際線が発着する東北最大の空港である】
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【写真左:日・英文とピクトグラムを併記したサイン、写真右:仙台空港旅客ターミナル断面図・国内線旅客動線(画像をクリックすると別ウィンドウで拡大画像が出ます。)】
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※以上は、季刊「ユニバーサルデザイン」05号(2000年3月発行)に掲載した記事を再編集したものです。
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